ニッケイ新聞 2009年11月18日付け
「日系人として信用されているので、裏切れないですよね」
しっかりした日本語で市政に対する熱い思いを語るのは、サンパウロ州アンドラジーナ市の小野秋夫ジャミル市長(49、三世)。
同市は、南マット・グロッソに程近いノロエステ西部の人口約6万人の町。さとうきびによるアルコール生産、食肉工場が町の経済を支える。
サンパウロ大学で6年間、法律と日本語を学んだ。弁護士として働いた後、1988年に福島県県費留学生として初訪日。
「二世の父親は13人兄弟だったのですが、誰も日本に行ったことがなかった」。祖父母の移住以来、三代目にして初の墓参り。福島大学では日本文学を学んだ。
「ブラジルではジャポネスと言われ、反発していましたが、ここから(自分のルーツが)来たのかと思ったら、日系人として自信が持てるようになった。自分の存在を確かめることができたという感じですね」と留学体験を振り返る。
帰国後は県人会内の事情から、福島県人会の会長(89年~90年)を務めた。日系家族350が住むアンドラジーナ文化体育協会の会長(04年~08年)、ノロエステ第3地区長としても地元の日系活動を支えた。
任期中の07年に、ロドビアリアの前にある東京公園で始めた日系フェスチは現在も続く。100周年には鳥居が公園入り口に建設された。
07年から市会議員。昨年の市長選挙にPT(労働党)から出馬し、当選を果たした。今年1月から行政のトップとして采配を振るう。
「ブラジルの市長でPTは私だけではないでしょうか。でも10人の市会議員のうち、6人が対抗勢力のPPS(社会大衆党)。なかなか大変です」と苦笑いする。
現在心を砕くのは、インフラ整備。下水、アスファルト共に4割が未整備の状態だという。
アンドラジーナ近くには、トレス・イルモンエスなど三つの水力発電所があり、近隣都市には歳入として還元されている収入が、アンドラジーナには適用されていない状態が続いていることから、解決を目指す。
南麻州トレス・ラゴアスでは、製紙工場が30万ヘクタールの土地で植林事業を進め、アンドラジーナでの苗の生産が始まった。
「財政的に厳しかったが、徐々に状態が良くなりつつある。インフラ整備後には、進出企業の工場誘致も行いたい」と腕をまくる。現在の支持率は65%。
「日系人に対する信用だと思う。それに応えないといけないという思いが仕事の上で力になっているのは間違いないですね」。
物静かな口調ながらも、強い意志を感じさせた。日系三世の妻と息子がいる。