ニッケイ新聞 2009年10月16日付け
「72年、開通して1週間のアマゾン横断道路を車で1200キロも走ったんですが、いけどもいけども両側が高さ40メートルぐらいの森なんですよ。感動しました。まるで映画『モーゼの十戒』で海が割れるシーンがあるでしょ、あれそっくりでした」。ノンフィクション作家の山根一眞さんは9月の講演の中で、そう感動した面持ちで語っていた▼現在では製材所が増えてまったく景観が変わった。〃アマゾン移民の故郷〃トメアスー移住地でも道路際の風景だけを見れば、サンパウロ州とほとんど変わらない牧場風景が広がっていたりする。同移住地では80年代にはわずか4軒だった製材所が、90年代には60カ所に激増したというから無理もない。減ったとはいえ今でも45カ所ある▼渡伯前は東京・築地の魚河岸で働いていたという北島義弘さん(70、佐賀)は、海外商業実習生として63年にそんなトメアスーに移住し、70年からベレンで貿易事務所を開き、アマゾン・トラベル・サービスの社長として北伯の旅行業の草分けになった▼愛飲するインドネシア産のタバコを指にはさみ、部屋の中を甘い匂いでいっぱいにしながら、「コケの一念だよ」とつぶやきながら白煙をくゆらす姿には一種独特の風情がある▼ある時、北島さんはチャーターしたセスナ機でトメアスーから帰る途中、ジャングルに墜落したことがあるという。「6時間あまりも密林をさまよい、偶然河に出たと思ったら船が通りかかり、救出されて九死に一生をえた」との話を聞き、心底驚いた。「それでも住み続けている。アマゾンは人を変えるのかも知れない」。 (深)