今も続くサリドマイド渦=新たに3件の被害児報告=国内の使用量は144%増加
ニッケイ新聞 2009年9月15日付け
五〇年も前に奇形児誕生で世界中を震撼させたサリドマイド渦が、ブラジル内では現在も報告されていると十三、十四日付エスタード紙が報じた。
旧西ドイツの会社がてんかん用抗マヒ剤として開発し、睡眠、鎮痛剤としても使うようになったサリドマイドは、妊娠中の服用で多数の奇形児誕生という悲劇を招き、一時販売が中止された。
ところが、同薬は現在も、ハンセン病やループス(全身性エリテマトーデス)、エイズ、一部のガン治療薬として使用されている。
特にブラジルでは、ハンセン病治療薬として公的医療機関では無料で入手できる事も問題で、二〇〇七年にマラニョンとロンドニア、南大河各州でサリドマイド児誕生が確認された上、今回、パライバ州で二件、リオ州で一件の薬害も報告された。
エスタード紙は、ブラジルのサリドマイド児誕生の背景に、世界で二番目にハンセン病患者が多い事をあげ、二〇〇〇年以降の同薬使用は一四四%増加と報告。ハンセン病が多い貧困層では識字率も低い事から、妊婦の使用を禁ずる印を中絶薬と読み間違えて使うといった問題も起きている。
〇七年のサリドマイド児の報告例には、父親がハンセン病で同薬を服用していたが、母親は服用の記憶がないという例もあり、同薬使用には細心の注意が必要である事を浮き彫りにした。妊娠中は医師の指示した同薬を服用という例もあり、医療現場の責任も大きい。
一方、同薬被害者の身体障害への賠償金はごく僅か。同薬の使用を認可した国も、全ての被害者への賠償責任がある事を認めつつも、財源が確保できていない状態。同薬被害者に五~四〇万レアルの賠償金支払いを求める法案が下院法制委員会に上程されたばかりだ。
我が子の障害を知ったショックの後、最善を尽くすため保険プランに加入、父親の背中には「神様からのプレゼント」と大きな刺青があるアナ・クララちゃんの様に、両親の愛を受け共に戦える子もいるが、ハンセン病の母から生まれ、心臓の形成不全のため一月で命を閉じたマリア・ヴィトリアちゃんの例など、サリドマイド被害の実態は、ブラジル医療現場の問題も浮き彫りにしている。