ニッケイ新聞 2009年9月2日付け
ルーラ大統領は八月三十一日、岩塩層下油田の開発要を国家の士気を発揚する世紀の国策事業として発表と一日付けフォーリャ紙が報じた。海底を七キロメートルの深度まで掘り進め、ブラジルの石油産出量を数倍にならしめる新たな国土開発への挑戦だと喝破した。石油生産に専心するペトロブラスは政府が命運を賭ける大事業であり、同公団に対する批判は当らないとけん制。開発要綱が議会で承認されると、さらに一千億レアルの資金調達が可能になると述べた。
かつてはペトロブラスをペトロブラックス(クスはラテン語で退出を意味する)と社名変更し、同社が最後に生き残った恐竜として民営化する話があった。しかし、PT(労働者党)政権は同社に増資し、岩塩層下油田を発見するに至ったと自画自賛した。
多くの途上国が多量の石油を抱えながら、天の恵みを国家経済に生かすことができず、貧弱な途上国であり続けている。豊富な石油資金がありながら、産業勃興に努めない。これらの国には、石油が禍となっている。
同油田は、ブラジルにとって神様の贈り物であり、当りクジだ。ルーラ政権は、かつて見捨てられそうになった恐竜を大切に育てた。豊富な石油資源がありながら、国民を飢えさせるような国にしないという。
開発要綱発表を外紙は一斉に「ブラジルの独立記念日」と報じ、ルーラが岩塩層下から外国勢を排斥という。フォーブス誌は、ブラジルが同油田の自主管理を宣言したのを米企業の手抜かりとした。ウオール・ストリート紙は「国際政治の変化」と報じた。ニューヨーク・タイムスは、大油田に多国籍排除は通例のこととした。ガーディアンは、ルーラがこれで、ブラジルから貧乏人を一掃できるかと報道。
同油田の開発要綱は、前代未聞の大規模な石油開発新基準といえる。要綱発表は、歴史に残る行事だ。会場に張り出された「岩塩層下油田は国家資産。ブラジル国民の富。ブラジルの未来を保障するもの」の標語は、やがて現実となる。
しかし、要綱発表に大統領選を意識し、政治色を強く打ち出したのが鼻についた。ブラジルが同油田で新たな一歩を踏み出したのは良いが、あまり芝居がかったのは不自然といえそうだ。
同油田は二〇一五年、採算ベースに乗る。それまで税収は少ないから、ロイヤリティも僅少だ。ルーラ大統領は、PMDB(ブラジル民主運動党)の支援で開発要綱を承認にこぎつける。これで石油は政府の物となり、強固な岩塩層下公団の基礎もできる。