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南大河州ポルトアレグレ=日本語モデル校廃止か=援協が学校不動産を売却へ=文協との確執あらわに=総領事館が調停役か

ニッケイ新聞 2009年8月28日付け

 南伯の日本語教育拠点である「ポルトアレグレ日本語モデル校」(大澤秀子校長、生徒九十一人)が危機的状況に陥っている。同校が教室として使用する建物を、所有団体である南日伯援護協会(鈴木貞男会長、会員三百三十二)が七月二十五日に開いた臨時総会で売却を決定。鈴木会長が「運営団体である文協に買ってもらうか、売却したお金でコロニアのために使いたい」と話す一方、大澤校長は「モデル校は元来援協の事業。生徒や教師、南伯の日本語教育はどうなるのか」と悲鳴を上げる。何故、このような状況に陥ってしまったのか――。

援協がモデル校を創設

 モデル校の設置は、国際協力事業団(JICA、現国際協力機構)と地元コロニアの協力で進んだ。
 「日語教育を進める以上、これから学校をひとつにまとめたモデル校が必要であると痛感」(援協ニュース188号『趣意書』)とあり、サンタカタリーナ、南大河州の南伯二州には当時、十八校、教師三十人がいたという。
 八七年には、JICAが学校となる敷地、建物に購入費全体の五四%にあたる約一千三百万円(建物購入費約五百九十万円、備品教材費として約四百四十五万円)を支援、残りを地元コロニアが負担した。
 石川博資・援協事務局長は、「私も含め会員らが自費で数千キロを車で走り、みなさんの協力をお願いしました」と当時を振り返る。
 学校は空港近くに購入されたが、飛行機の騒音、地域の治安の問題、デカセギによる生徒の減少(当時三十四人)を受け、九八年に現在の市内サンタナ区に移転した。この建物の購入価格は十三万レアルだった。

運営団体を文協に移行

 ブラジル政府による福祉団体が行なう事業の大きな見直しが行なわれた。ブラジル日本文化福祉協会が現在も莫大な追徴金を課せられている、いわゆるINSS問題である。
 この時期、援協はモデル校を運営することが困難として、運営団体としてポルトアレグレ日本文化協会(当時管野妙子会長)を〇四年に発足させ、日本語教育事業を移行する。
 当時は無償でこの建物を使用していたが、援協会員から「日系人生徒が少ない。何故、生徒父兄が援協会員にならないのか」と不満の声が上がり、〃家賃〃の請求を求める声が上がる。
 学校を移転するまでの三カ月間、他の建物を月二千五百レアルで間借りし、家賃を払った文協側からは、「元は援協の事業。便宜上、移行したのに何故―」と反対意見もあったものの、不承不承も月額二百レアルを支払うことを決める。
 この一件から、援協とモデル校を運営する文協とのわだかまりが生じたようだ。

食い違う両者の主張

 今年一月、サンパウロ市カンブシー区の教会で屋根が崩壊、九人が亡くなる事故が起こった。
 建物にクッピンが出たこともあり、援協幹部から「事故があったら、所有団体の援協に責任がかかる」との意見が出る。
 岡島光男・現文協会長によれば、「早速、専門家の鑑定を受け、『現段階で必要なし』との結果を書留で援協に送っている」と説明する。
 しかし、援協側は「全く反応がなかった」(石川事務局長)とし、二百レアルでの賃貸契約が昨年十二月で切れたことから、家賃の値上げも打診する。
 「九十人の生徒から授業料を取って、家賃が二百レアルはおかしい。まるで営利を目的とした私塾か会社のようだ」(鈴木会長)。
 石川事務局長も「会計報告の公開を要求したが、全く回答がなかった。透明性がまるでない」と批判する。
 岡島会長はこれに反論。「我々は総会で会計報告をしている。いつ見にきてもいいと言っているが、誰も来たことはない」と語気を強める。
 大澤校長は呆れながら、「借金こそありませんが、儲けがあるなんてとんでもない。七人の教師に給料を払い、優秀な三人の生徒に奨学金を与えていますが、どこからも寄付も受けず、年二回のバザーで何とか運営している。援協は一センターボも協力していない」と怒りを隠さない。
 「日系人が少ないといいますが、生徒の三割以上が日系人。それに現在、ブラジルのどこに日系人だけの日本語学校があるのでしょうか」

売却決定、期限は9月10日

 援協は七月末、臨時総会を開き、モデル校がある不動産の売却を決定した。反対票は文協の会員でもある一人だけだったという。三十七人が出席、委任状は十九。
 援協はすでに不動産会社に査定を委託、三十四万レアルを文協に提示している。九月十日まで購入の意志がなければ、法的に文協もモデル校も退去する必要に迫られる状況となっている。
 岡島会長は、「買える金額ではない。夜も眠れません」と頭を抱える。
 佐藤宗一クリチーバ総領事、ポルトアレグレ出張駐在官事務所の三浦春吉領事に調停に入ってもらうことも検討。近日中にJICAやブラジル日本語センターへの説明も兼ねた出聖を考えているという。

メディア、父兄への説明会も

 「一部の幹部が扇動している。援協の会員の方は、本当の状況を知らないのでは」と話し、「売却を急ぐ理由に援協の負債があることがコロニアの噂になっている」と指摘する大澤会長は、今月三十日に生徒父兄やメディアを呼んだ説明会を開く予定だ。
 「みんなショックを受けています。援協の一部では『モデル校はもうない』という認識の人がいますが、サンパウロとの連絡や、教師研修も実施しています」
 鈴木会長、石川事務局長は、「八七年の趣意書に〃コロニアのために〃の文字がある。今の文協はそういう状況ではない。援協の会費も払わず、会の活動にも参加しない。虫が良すぎる」としながら、売却後の具体的な活用方法は見出せていないようだ。