茶道裏千家の中南米布教60周年とブラジル協会設立60周年を記念し、茶道裏千家淡交会が『中南米記念大会』を行なった。60年前に自らの足で当地普及の第一歩を印した、第15代家元の千玄室大宗匠(92、京都)を迎え、8月29日夜に晩餐会を、翌30日午前10時からはサンパウロ州政庁(バンデイランテス宮殿)で茶式と記念式典を行なった。日本総本部以外に中南米、北米各国から約900人もの参列者が集まった。
式典に先立ち『日伯友好・平和記念献茶式ならびに和合の茶会』が執り行われた。来賓に梅田邦夫駐ブラジル日本国大使、福嶌教輝在聖総領事、羽藤ジョージサンパウロ州議、野村アウレリオサンパウロ市議に日系3団体代表者、加えて伯、亜、メキシコ、ペルーの裏千家淡交会代表者も登壇し、11代目が考案した椅子式の手前「立礼式」によって、千玄室さん自らがお茶をたてた。
畳、茶碗など全ての用具を日本から持ち込んだステージ上の特設茶室で、厳かな雰囲気の中、来賓にお茶が振舞われた。「一つの碗を回し飲み、みんなで輪を作る精神が茶道の心でございます」と、大宗匠が笑顔を見せ和ます場面も。
世界平和と、日本・中南米各国の友好を願い献茶式が行なわれた後、記念式典に移り裏千家ブラジル協会のエリソン・シンプソン・デ・リマ・ジュニオール会長が開会の辞を述べた。
千玄室さんもあいさつに立ち、「ブラジルは1954年に布教のため初訪問し、亜国、ペルー、メキシコにも足を運んだ。今よりもっと遠くに感じる国だったが、多くの人々が茶道に励む姿は今でも鮮やかに思い出される。協会が設立され茶道が普及したのは、同門のたゆまぬ努力と関係者のご理解、ご協力のおかげです」と深く感謝した。
梅田大使は「大宗匠をお迎えし中南米のみならず、北米からも参列者がおり、盛大な式典が催されることに日本政府を代表して感謝いたします。日本との友好関係増進に大変貢献しておられ、60年の時を経て茶会が開催されますことは、文化交流の一つの歴史です」と称賛。木多喜八郎文協会長と、羽藤サンパウロ州議も祝辞を述べた。
功労者への表彰も行なわれ、24の個人・団体の功績を称えた。代表で武田宗知さんが「大宗匠が初来伯し指導した60年前に、7人の侍ならぬ〃7人の指導者〃が生まれ、茶道がこの地に根付きました。総合芸術として、さらなる普及に励みます」と礼を述べた。また林宗慶、林宗円の両氏に対し、正教授への昇段認定も行なわれた。
「一盌から世界平和を」=千玄室さんが特別講演
記念式典後には、千玄室さんによる特別講演も行なわれた。『みんな一緒に世界平和を!』というテーマの下、宗教や身分の格差がない茶道本来の精神を語り、自身の理念である『一盌からピースフルネス(平和)を』の理念を説いた。
「古くはイエズス会の宣教師とも、お茶会を楽しんでいる。茶室内には宗教の隔たりが存在せず、人々が一体となれる」と融合性を強調。「心を清らかにし、無心で相手を思いやる気持ちは、やがて世界を平和にする」と茶道の在り方を語った。
「そんな善意が日本を支えた一面もある。コーヒーも良いがお茶は健康に良い。平和な国を築くため、ブラジルこそ茶道の役割を果たせるのではないか」とまとめた。
モジから友人らと出席した会員の香西喜久子さん(71、岡山)と芝紘美さん(75、大阪)は、「『スポーツは勝敗があるが、茶道の世界には勝敗はない』」という言葉が印象的。心を一つにして、平和を願うことが大切だと改めて感じた」。
ボリビアから祝福に駆けつけた日比野喜美子さん(65、長崎)、北山恭子さん(58、香川)も、「大宗匠の講演を聞けるなんて夢のまた夢。教えは心に染み渡った。茶道がいかに世界平和に役立つか感じた」と感激した様子で語った。
式典を終え林宗円代表夫人は、正教授という最高段位に重みを感じつつ、「若い方にも広めたい。茶の湯本来の姿を、ブラジルにも伝えなければ」と責任を語った。