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数奇な運命たどった優勝旗=パラー=岸信介元総理が寄贈=北伯で盗難、サンパウロ州で発見=アマゾン80周年で返還

ニッケイ新聞 2009年7月18日付け

 盗難に遭って長らく行方不明になっていた、岸信介元首相が北伯野球連盟に寄贈した優勝旗が、数奇な運命を辿ってようやく元の場所に戻っていたことが、ニッケイ新聞の調べで分かった。この優勝旗が発見されたのは昨年の暮れ頃、なんとサンパウロ州沿岸部サンビセンテ市の骨董市のフェイラだった。見るに見かねた戦後移住者の手で買いとられ、岐阜県人会に委託され、ブラジル野球連盟を通して、この度、奇しくもアマゾン移住八十周年を祝っている北伯に返還された。

 実は、いつ岸元首相がこの優勝旗を北伯野球連盟に寄贈し、いつ盗難に遭ったのかすら分かっていない。というのも、北伯球連では「盗まれた」という話が知られていなかったからだ。
 つまり優勝旗は二旗存在する。サンパウロ市から送られたものは、七月十日に届いたばかり。
 この優勝旗を預かっていた岐阜県人会の山田彦次会長は、「サンビセンテの骨董市で売られているのをたまたま見つけた戦後移民が、『どうしてこんな大事なものが』と見るに見かねて買いあげ、うちに善処を依頼してきたんですよ」と説明する。
 「ブラジル野球連盟の大塚ジョルジ会長の代理が二週間前に取りにきたので渡したはいいが、その後、礼状どころか、なんの音沙汰もなかったんで、我々もどう発見者に報告したものかと弱っていたところでした」という。
 現パラー野球・ソフトボール連盟会長(旧北伯野球連盟)の影山アントニーノ会長は、本紙の下小薗昭仁通信員の質問に答え、「一世の野球関係の先輩や巷のうわさ話でも、優勝旗が盗まれた話は聞いてなかったです。送られてきた優勝旗を現在あるものと比較しても、最初はその違いを判読して説いてくれる人もなくて困りましたが、今は戻ってきた優勝旗が本物であると分かるので、だんだん喜びが膨らんできました」という。
 現在、サンタイザベル文化協会に保管されている二旗を比較すると明らかに異なる。
 今まで使用されてきた優勝旗は「北伯青年野球、元内閣総理大臣贈岸信介」とだけ記されているが、発見されたものは「北伯青年野球選手権大会、元日本国内閣総理大臣贈岸信介」とある。
 違いは素人目にも歴然としており、今までのものは墨での手書きでありコピー、今回発見されたものは錦糸の刺繍が施されており、見るからに本物のようだ。
 地元関係者によれば「盗まれた時点で、当時の野球連盟の役員が慌ててコピーを作成したようだが、残念ながら、文献もなく当時の関係者もほとんど鬼籍に入られていて、真相はつかめません」という。
 今後どのように活用するかという問いに対し、景山会長は「理事会に諮って最終的には決めますが、私としては現役に復帰させ、今まで果たせなかった優勝チームの感激を味わわせたい。二~三世層の時代になったパラーの野球界に新たな力を与えてほしいと思っています」と語った。
 そして「数奇な運命を経て戻って来るようご手配くださった方々には心から感謝しています。また、長い年月をどういう風に過ごしたのか知りたくなりました」と感謝の言葉をのべた。すぐに感謝状を発見者と県人会に贈るという。
 ブラジル野球連盟の沢里オリビオ副会長によれば、きちんとした優勝旗は「日本でないと作れない。安く見積もっても七千ドルから一万ドルはする。まして、元総理の、となれば、幾らするか分からない」とする。「事実、球連にも総理大臣寄贈の優勝旗はない。大変貴重なもの」とその価値の高さを強調した。