ニッケイ新聞 2009年7月1日付け
預言と伝説のはざまで誕生した、超近代的な未来都市の謎――。『ブラジリア日系入植五十周年』記念誌(FEANBRA)は、実に読み応えがある文章が多く掲載されている。中でも異彩を放つ一文が、元日本国大使館顧問弁護士、今井眞治さんの「未来都市ブラジリアの誕生」だ▼建築家ルシオ・コスタの発案による飛行機の形をした都市として世界的に有名であり、そこにニーマイヤーの建築が調和し、超近代的な装いをもっているようにみえる▼ところが、一八八三年に夢の中で新都出現の啓示を受け、「カナンの地が出現し、人類の新しい文明が生まれる」と預言した伊人聖僧ドンボスコ、そしてその通りの場所に遷都したクビチェッキ大統領という逸話に始まり、今井さんは、その都市計画において「すべてのものがエジプトのタロットの哲学とヘブライのカバラの数理学を基礎にしている」と書く▼国会は、立っているH型の建物になっており、それぞれ二十八階あり、足すと五十六というタロットの神秘の番号になる。対照的に、H型を寝かした形になっているのがバスターミナル。HはHOMEN(人間)の頭文字であり、立っている国会は人間の精神の不死身性を、寝ている方は精神以外が不死身でないことを表しているという▼国立劇場はピラミッドの形、国家科学技術審議会もファラオの墓に似ているという。最後に今井さんは「ブラジリアは三〇〇〇年代の首都を代表してゆくであろう」と結び一千年後を占う▼日ポ両語で美しくレイアウトされ、日本移民史のみならず、来年四月に建都五十周年を迎える首都の歴史を知る貴重な本だ。(深)