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一椀の茶が生む世界平和

 茶道裏千家が今年で中南米布教60周年を迎えた。60年前に中南米に渡って茶道を伝えた15代前家元の千玄室大宗匠も45年ぶりに来伯し、92歳にして心身の衰えを感じさせない、かくしゃくたる姿を見せた。年に数回は精力的に海外へ行き茶を広めるという。そんな同氏の思想の根底には「一椀の茶から平和が生まれる」との想いがある▼第2次大戦中に二十歳で学徒出陣し、海軍で訓練を受けた後、特攻隊を志願した。次々に仲間を失ったが、自身には出撃命令が下らないまま終戦を迎えた。「何で私が残されたのか」との悔悟の念はやがて「戦争は二度と起こしてはいけない」との決意に変わり、それが戦後、茶道の海外普及の道へと進ませた(京都新聞のインタビューより)▼今回サンパウロ市であった記念茶会には北米、中南米、日本などから多数の会員が出席し、民族混交で大宗匠ら来客をもてなした。日本・日本人という枠を超えて世界に波及する茶道の様子に、「大変すばらしい。こんな国はほかにない」と大宗匠は大絶賛し、「茶道が教える『礼に始まり礼に終わる』という精神の欠如が戦争につながる」と熱情的に語った。〃還暦〃を迎えた世界平和の夢が、ブラジルの地に結実する想いだったのだろうか▼会場で茶道を嗜むブラジル人から、「茶道を始めてから、日常の些細な出来事が気にならなくなった。今の私の関心は美や芸術にある」と聞いた。スポーツのような「勝ち負け」がない茶の世界に触れると、民族や国の壁をとっぱらった「世界平和」の実現が手に届きそうに見える。もっと社会の底辺などの幅広い層にも、「一椀の茶」の精神が広まって欲しいものだ。(阿)