ニッケイ新聞 2009年4月17日付け
先月、サンパウロ市近郊のイビウナ市在住のコチア青年、下山由夫さん(67、岡山県)が自宅で撲殺される悲劇が起きるなど、各地の農村部で日系人が襲われる事件が相次いでいることを受け、聖南西文化体育連盟(山村敏明会長)は参加団体代表ら約十五人で、治安対策の先進移住地であるスザノ市の福博村(斉藤タケヒコ・パウロ会長)を訪れた。具体的な予防策を聞くと同時に、真剣な質疑応答が行われ、問題の切実さをうかがわせる会合となった。
台所にかけられたカレンダーの裏に隠されたスイッチを、おもむろに入れる。屋根の上に設置されたサイレンの音がゆっくりと高まり、やがて耳をつんざくほどの轟音になった。
居合わせた一堂は顔を見合わせ、「まるで防空警報のようだね。こりゃ、強盗も驚く」と納得の表情を浮かべた。
福博村の顧問、大浦文雄さん(84、香川県)の自宅を全員が訪れ、八方向へ響く特大サイレンを試しに鳴らしてもらった時のことだ。
「イビウナの怒りはまったくよくわかる」。大浦さんは、先週のニッケイ新聞の読者欄に寄せられた白旗諒子さんの下山さんの件に関する「このつらい怒りを、何処へぶつけたらよいのでしょうか?」という問いかけに深く共感する。
会計理事で防犯担当のコジマ・バウテルさんは「村の防犯システムのおかげて、昨年だけで五回ぐらい未然に防いだ。でも、完全に防ぐことは不可能。唯一できるのは入るのを難しくすることだけ」と説明する。
犬が鳴いたりして異状が起き、強盗に襲われそうだと気付いた家はサイレンを鳴らし続け、それを聞いた近所は断続的に鳴らすようにして、発信源を分かるようにする。自宅に侵入された後は、犯人を刺激して危ないので鳴らさない。鳴らすのは入られる前のみ。気がついたぞ、という意思表示だという。
侵入されそうな時、いち早く隣家に電話し、助けを呼ぶ。家の中の数カ所に電話を設置、トイレの中など押し込められそうなところにも隠す。
侵入された後は抵抗せず、隣家から助けが駆けつけるのを待つ。隣家の住人は車につけた警察車両のようなサイレンを鳴らしながら現場に近づき、犯人に逃げる時間を敢えて与える。隣家の車が三台、四台集まったら、拳銃を空に向かってバンバン撃つなどする。
大浦さんは「村が団結、連携していることを見せると、段々と他の地域に移るようになる。より塀が低いところ、襲いやすいところへ強盗の狙いを移すことが重要」と強調する。
大浦さんは次の七点を提言する。1)家の前に街灯を点けて進入しにくい雰囲気を作る。2)番犬を飼う。大型犬だけでなく、良く吠える小さな犬、すぐ声をあげるガチョウなども庭に放す。4)家の周りに柵を作る。5)サイレンを設置する。6)「隣近所と仲良くする」隣組組織を作っていざという時に連絡を取り合い、お互いにすぐに駆けつける。7)襲われたことを想定した防犯訓練を繰り返す。
視察には山村会長はじめ聖南西の南満第一副会長(ピラール・ド・スール日伯文化体育協会会長)、荒木進第二副会長(オザスコ日伯文化体育協会会長)、高野信喜第三副会長(イビウナ文化協会会長)ら約十五人が真剣な表情で参加した。
大浦顧問は「これが決定打ではない。相手も日々工夫を重ねる。こちらも対策をさらに練る必要がある」とのべ、さらなる気を抜かずに対処する必要があることを強調した。