ニッケイ新聞 2009年4月14日付け
ゴルゴタの丘での受難・ユダ打ち・復活というー哀しみ、復讐と歓喜の3日がすぎ秋色がいっそう深くなる。本来は陰鬱な冬が終わり動物や植物が緑の再生する新春を祝うのとキリストの復活が結びついたものとされるし、英語の「イースター(パスコア)」は、春の女神を意味する古い英語が語源であるからーやはり緑が萌え爽やかな風の春の祭事と見たい▼聖週間は肉食を避け食卓には魚料理が並ぶ。まあ、鰯や鯖の庶民派でもいいのだろうけれども、本格派はバカリャウである。あの塩に漬けて干した鱈の料理法はいっぱいあり多彩な味を誇る。若い頃にポルトガルに留学した知友によると、あの国では365日を塩鱈の調理だけで過ごせるそうだから凄いに尽きる。あれにはオリーブ油が欠かせないとも▼さて昔の日本移民たちはどうであったのだろう。古猿組は「大きいのを1匹買ってよく茶漬けにした」と語るが、オリーブ油たっぷりの西洋風は無かったらしい。それにしても、塩鮭の郷愁に駆られながらのお茶漬けとは、まったくもって珍妙で見事な思いつきである。恐らくピンガの晩酌?もやったに違いないが、あの塩っぱさは強い酒の肴にはぴったりである▼山形や新潟の山奥には「棒だら煮」があり、お盆や正月のお膳に乗せる。厳寒に真鱈を開き干した乾物であり、5日も6日も水に漬けて柔らかくし醤油と味醂や酒で味付けしたもので極上の美味だそうだが、冬の雪深い山家の炉辺で純米酒のぐい呑みを傾けながら薄い茶色に煮詰めた鱈の一口は舌が蕩けるだろうなーとの夢がしきりのこの頃である。 (遯)