ニッケイ新聞 2009年4月9日付け
戦後コロニアに大混乱を引き起こした勝ち負け抗争。DOPS調書により、定説となっていた臣聯の組織的犯行説は、関係者の証言を丹念にとった外山脩氏著『百年の水流』で揺らぎつつある。勝ち負けをテーマにした著作では高木俊朗著『狂信』が有名だが、内容はその名に恥じないものであったし、『コラソンイス・スージョス』(フェルナンド・モラエス著)、『移民八〇年史』はDOPSの調書をもとにしている。この内容と当時者の証言は大きく食い違う▼脇山甚作殺害事件の実行犯だった日高徳一さん(82)は「自らの意思でやった」と臣聯との関連を否定する。『百年―』の中で外山氏は一千人を超える大量検挙の面目を保つため、当局が調書を〃作文〃したのでは、と推測している。しかし、多くの当時者が口をつぐんだままこの世を去っていき、ブラジル当局の資料や日本側で恣意的に作られた小説が歴史となってきた▼関係者が多かったこともあり、勝ち負け事件は長くコロニアのタブーだった。「勝ち組=狂信的なテロリスト」の印象は依然残る。本来は取材を通し、その真相に切迫できたはずの邦字紙も一方的な見方をしてきたのではないか。戦後パウリスタ新聞の記者が勝ち組の襲撃を恐れて、抽斗に拳銃を潜ませていたことを聞き、日高さんは「そんなことは思いもしなかったー」と声を呑んだ▼当時の多くが理解したであろう勝ち組の心情は蓋をされ続けた。日本を恥じ、ブラジルに同化しようとした二世が高齢となり、若い世代が日本に熱い視線を向ける今こそが、コロニア側から勝ち負け問題を読み解く最後の時なのではないか、と思う。 (剛)