ニッケイ新聞 2009年2月17日付け
劇団笠戸丸(山南純平代表)の「ボクノフルサト。」サンパウロ市公演が十五日午後二時から文協ビルで行なわれ、小講堂には立ち見が出るほどの人が集まり、時に笑い、時に目に涙を浮かべて笠戸丸の移民群集劇を堪能。熊本から来た十七人の団員は、勢いのある演技や踊りでコロニアの観客を魅了した。七日弓場農場、十日プロミッソン、十三日ピラール・ド・スール公演を終えて迎えた最終日は、拍手喝采で幕を閉じた。ニッケイ新聞社主催。
下駄で踊るタップダンス「ゲタップ」で勢い良く劇が始まった。太鼓、鳴物と一緒に下駄がリズムを刻み、奇抜な色の着物の衣装に身を包んだ役者たちは、汗がほとばしるようなステップを元気良く見せた。
「ブラジルには金のなる木があるけんたい」という上塚周平の言葉を信じて、「地面の反対側にあるブラジルへ」ー。第一回移民船笠戸丸に乗って渡伯する上塚をはじめとする十三人が、個性豊かに描かれている。
その一人、上塚を慕う女性が孫と一緒に日記を読み返し、当時を振り返りながら物語が進んでゆく。日記は、一生懸命練習したというポルトガル語で読まれた。
船上で賊が女性を人質に金を要求するシーンでは、「我々は国家を背負っているんだ。殺すなら俺を殺してくれ」と上塚の武勇伝が盛り込まれ迫真の演技。しかし、「宴会の余興ですよ、上塚さん」というオチに、会場は少しがっかりした様子。
希望みなぎる入植前とはうってかわって、「おなかすいた、熱い」と苦しむ移民。偽装結婚をした女性は家を飛び出し、「お腹の子のためにも頑張らなくちゃ」と決意する一方で、「消えてなくなりたい」と自殺する女の子、「笠戸丸の船長になってみんなを日本へ連れて帰る」夢を胸に、マラリアで死んでゆく男の子が描かれ、観客は波乱万丈の移民の生活に見入っていた。
「金のなる木はどこに」と不満が充満するシーンでは観客の頷く姿も見られ、上塚は「移民の人たちが安心できる場所、フルサトを作るという夢」を持って奮闘、プロミッソンへと辿り着き、「新しいフルサトが出来ました」と力強く宣言する。クライマックスは上塚が倒れて閉幕。大きな拍手が送られた。
会場からは時に笑い声が聞こえ、真剣なシーンでは涙を拭う姿が見られ、観客はそれぞれの体験に照らし合わせながら堪能したようだ。
山南団長が、「ブラジルで公演できたなんて信じられない思い。ありがとうございました」と興奮したようにあいさつすると、もう一度大きな拍手が送られた。
熊本県出身の藤本百合子さん(84)は、「親たちが苦労したのを思い出しました」と感慨深げに頷いていた。
会場出口では、劇団員が列になって観客一人一人と握手。「うまかったよ」「ブラジルに来てくれてありがとう」と温かい言葉が贈られていた。
マラリヤでなくなったみーくん役の石崎優香さんは、「ブラジルのみなさんは温かい。今公演は人生の財産になった」。
上塚役の田中幸太さんは、「プロミッソン公演では、閉幕後にたくさんの人から『上塚先生』と涙を流しながら握手を求められて、上塚の偉大さが身にしみました。熊本にいただけじゃ分からなかったことが分かった」といろいろを吸収した様子。「又来たいです」と話していた。
公演後、熊本県人会館で送別会が開かれて、県人らと交流を深めた。