〃移民の聖母〃ドナ・マルガリーダの列聖申請を――。その動きの具体化を受け、列聖審査の専門家、サンパウロ使徒教会法大学教授のエジソン・ルイス・サンペウ氏(54)が8月26日に来社し、今後の過程を説明し「可能性は十分にある。彼女に関するあらゆる逸話、特に奇跡と認定される可能性のある体験談、実話を集める必要があります。皆で列聖手続きが進むように祈りましょう」と呼びかけた。
南米カトリック界のリーダー、ドン・オジーロ枢機卿は8月18日、列聖申請の動きを始めた奥原純さん、救済会の本田泉専務理事と面会し、ドナ・マルガリーダに関する聴取をした。奥原さんによれば、「大司教はこの件にとても好感を持ってくれた。列聖申請の実務に詳しいイルマン・セリアと会いなさいと紹介してくれ、後押ししてくれています」とその時の様子を説明した。
後日、奥原さんがイルマン・セリアに相談に行くと「ドナ・マルガリーダをよく知っています。本当に素晴らしい人でした。サンタ(聖人)にふさわしい。ぜひ協力したい」と申し出たという。
サンペウ教授は「聖人候補は『神の使い』となり、次に『尊者』、ローマでの審査の段階に入って一つ目の奇跡が認定されると『福者』、二つ目の奇跡が認定されるとローマ法王が『聖人』への昇格を宣言します」との筋道を説明した。数十年がかりが普通だと言う。
同教授は、「ドナ・マルガリーダは聖人にふさわしい。まず聖人申請を後押しする運動の中心になる協会を組織し、その申請を熱心にお祈りするグループを呼びかけ、その功績をひろめるための活動を」と薦めた。
日伯司牧協会(山本アントニオ伊三男会長)の元会長、松尾繁詞神父によれば、1984年に長谷川・三木パウロ神父らが中心になり、中村長八神父の列聖申請が始まっている。「私もドナ・マルガリーダには何度も会っている。このような動きを歓迎したい。両方の運動を盛り上げる中で、さらなる信仰の目覚めにつながれば嬉しい」と喜んだ。
法王が認定すれば、日系社会の中の〃移民の聖母〃から、〃世界の聖人〃に公式化される。それと共に日本移民の歴史も、ブラジル史どころか世界史の一部に組み込まれるだろう。
ドナ・マルガリーダ(渡辺トミ・マルガリーダ、1900―1996、鹿児島)の旧姓は池上トミ。1900年に鹿児島県枕崎市のカツオ漁の網元の家の長女に生まれ、不漁で借財を抱えた家を助けるために、自ら親戚の構成家族の一員として1913年の第3回移民船「神奈川丸」で渡伯した。サンタカーザ病院に勤めていたパウロ・ブルー家の住み込み女中として働き始め、子供ながらも故郷に送金して完済した。
ブルー家では家事に加えて、上流階級の慣習、礼儀作法、言葉遣いを覚え、18歳で洗礼を受けた。27歳で会計士の渡辺儀平と結婚、太平洋戦争開始翌年1942年6月、サンパウロ市カトリック日本人救済会の活動を始め、政治経済警察から投獄された邦人指導者、43年にサントスから強制立ち退きを受けた6千人以上の日本移民を救済するために熱心に活動した。
多くの日本移民が困難に直面していた当時、あらゆる相談事がドナ・マルガリーダに持ち込まれ、真摯にその問題に取り組んだ。「貧困者・疾病者及びその家族の救済、寄辺なき老人の収容・養老院への入院斡旋、孤児・私生子の収容・養育、精神病者の入院斡旋、結核患者の入院斡旋と救済、死者(無縁仏)の埋葬、失業者の就職あっせん並びに人事相談」(『救済会の沿革とその事業』1968年、3頁)。
1967年11月末までの25年間に延べ人数で6万1403人を救済したと同記録にはある。移民50周年(1958年)の機に「憩の園」を設立。戦中以来、72年間も継続して救済し続けている日系最古の福祉団体だ。
サンパウロ聖母婦人会の創立会長、1978年に勲四等宝冠章、92年に吉川栄治賞、93年に朝日社会福祉賞等を受賞し、96年3月12日になくなった。身長は150センチに満たなかったが、その存在はコロニアにとって限りなく大きかった。
「聖人とは」
Edson Luiz Sampel
Doutor em Direito Canônico pela Pontifícia Universidade Lateranense, de Roma.
Professor da Faculdade de Direito Canônico São Paulo Apóstolo.
エジソン・ルイス・サンペウ
使徒聖パウロ教会法大学教授(ローマ・ラテラネンセ法王大学・教会法博士課程修了)
聖人とは、神の意志を厳格に遂行する人のことです。聖性とは、慈しみ、あるいは隣人への愛において完全であるという点が特徴です。ですから聖人は、天国だけではなく、日常生活の中で、私たちの周りにもいることがわかります。時として、道で親切にしてくれる誰かのことも聖人と言えるかもしれません。
神やすべての聖人と顔を会わせることができる「場所」が天国なのです。人類が創造された時から、天国には何十億人、数え切れないほどの大勢の聖人がいることでしょう。カトリック教会には、厳粛な手続きを経て「列聖された聖人」の長大なリストがあります。聖人とは、私たちの信仰すべき存在として地位を上げられた男性、女性を意味しています。彼らは生前、イエス・キリストを愛していたことが証明されています。そのため、彼らの生涯は私たちにとって理解しやすい模範となります。また彼らは、私たちのために神に嘆願をしてくれるため、天国における私たちの「弁護人」でもあるのです。
渡辺マルガリーダさんは、神への愛により、日本移民やその子孫で困窮する人々に奉仕をした真の意味での聖人であり、大勢の人をキリスト教信者にしました。したがって、この称賛すべき移住者の女性の列聖を考えるのは理にかなったことといえます。列聖のための一連の手続きはサンパウロの大司教区で開始され、全てうまくいけばローマのバチカンで完了します。
最初の段階を通過すれば、聖人候補は「神の使い」(servo de Deus)となり、その次に「尊者」(venerável)となります。次にローマでの審査の段階に入り、一つ目の奇跡が認定されると「福者」(beato)となり、二つ目の奇跡が認定されると、聖ペテロの後継者であるローマ法王が「聖人」(santo)への昇格を宣言することになります。
渡辺マルガリーダさんに祈りをささげましょう! 神の思し召しがあれば、いつかカトリック教会に列聖された聖人となるでしょう。アーメン。