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勝ち負け小説『イッペーの花』=元サ紙記者紺谷さんが上梓=ニセ宮や桜組挺身隊に焦点

 「アンタには、宮様の血が流れとるがやちゃ」――子供の頃、おばあさんのつぶやいたそんな一言が心の奥底にひっかかっていた達也(主人公)は、彼女の死に直面した機会に、自らのルーツを確かめにブラジルを訪れる。そんな不思議な場面から始まる小説『イッペーの花』を、元サンパウロ新聞記者で、現在札幌在住のジャーナリスト紺谷充彦さん(49、富山県)が7月末に無明舎(秋田県)から上梓した。
 勝ち負け抗争を扱った作品は、小説や映画、ノンフィクションを問わず、一連の暗殺事件を中心とした筋書きになりがちだ。ところが紺谷さんは、同抗争の中でも異色な逸話「ニセ宮事件」と「桜組挺身隊」に焦点を当てた。
 祖母が帰国後にブラジルとやり取りしていた手紙だけを頼りに、来聖した達也が親類を探すと老人ホームにいた。その益田は「日本のラジオが聞ける」という言葉に強く反応し、物語の舞台は一気に70年前の臣道聯盟の事務所に移り、当時の様子を再現する興味深い描写が次々に現れる。
 元邦字紙記者だけに、シッポーのキヨ農場をまるで見て来たかのような迫真の情景描写で書き、当地在住者が読んでも違和感が少ない。
 東京では「現代の〃勝ち組〃」を目指して詐欺まがいのネット商法で日銭を稼ぐ拝金主義だった若者が、当地で移民と触れ合う中で、徐々に「人生にとって本当に大事なものは何か」「本当の勝ち組とは何か」をじっくりと考え始める―という独自の展開だ。
 紺谷さんは本紙への手紙で《思えば、この作品の道のりは長かった……。15年前、「勝ち組」の人にインタビューしたときに構想を思いつき、それから機会あるごとに取材して、作品の原形を書き上げたのが10年ほど前になります。できあがった作品を、いくつもの文学賞に応募したのですが、ことごとく落選。それでも諦め切れず、構成を練り直したり、加筆したりしながら挑戦を続けてきました》と執筆につぎ込んだ執念のほどをしたためた。
 当地でも太陽堂、竹内書店、高野書店などの日系書店で注文をすれば入手可能。日本では無明舎(www.mumyosha.co.jp)まで注文を。