ニッケイ新聞 2008年11月11日付け
今から50年ほど前、アメリカの人種差別はまだまだ酷かった。暗殺されたケネディ大統領の時代で南部の州では黒人の大学入学を拒否し、ホワイト・ハウスは連邦の軍隊を派遣し黒人への門戸開放を迫る「メレディス事件」があったし、黒人を選挙から締め出すポール・タックス(投票するために必要な税金)を廃止するなど画期的な政策を実現する▼奴隷解放を目指した「南北戦争」も、北部と南部の戦いであり、この内戦では数十万人が戦死したとされ、リンカーン暗殺の原因となる。これほどに人種差別は激しかった。白い頭巾と装束に身を固めたKKKの黒人虐待は映画や小説で描かれるけれども、あれも最盛期には500万人のメンバーを擁し、政治的な発言力も強かった。今は勢力が衰えてはいるが、それでも白人優越主義は根強く蔓延っている▼そんな厳しい政治風土のアメリカで黒人のオバマ氏が、大統領に当選した。勿論、史上初であり、来年の1月20日に第44代大統領に就任する。ケニア人の留学生を父にし、母親は白人の子に生まれ名門大学を卒業した俊秀だし、弁舌も爽やかでうまい。選挙では「チェンジ(変化)」を訴え、若い人々を惹きつけ圧勝する▼それにしても、ヒラリーさんとの予備選やマケイン氏との戦いをよくぞ乗り切った。あの奴隷解放宣言から145年を経てやっとアメリカにも人種平等が訪れたのは真に意義深い。パウエル氏やライス国務長官など黒人系の閣僚も多くなっており、伝統的に厚かった人種の壁は今や薄くなりつつある。ここはバラク・フセイン・オバマ氏の当選を素直に喜びたい。 (遯)