ニッケイ新聞 2008年10月31日付け
ひどいコラムがあったものだ。先月、福岡県でブラジル籍の男が鉄パイプで自作した拳銃のようなもので日本人老夫婦から車を奪った事件に関して、二十七日付け某全国紙地方版は、驚くようなコラムを掲載した▼その記者は、最初は犯人を元特殊部隊員かと思ったらしいが、捜査関係者が『向こうでは当たり前らしいよ』と言ったのを真に受け、「私たちが竹でさおを作り魚釣りに行くように、彼らは銃を作り山へシカ撃ちに行くという。日常生活で、自然に身に付いたことだが、悪用は許せない」と書いている▼ブラジルのどこの地方なら、自分で銃を作って山にシカ撃ちに行くのか教えてほしい。普通、銃は買うものだろう。「銃を作って山に狩に行く日常生活」というイメージの根底に、どこかブラジル=アマゾン的な先入観が潜んでいるように感じる▼事件を起こした当人への批判は当然だ。だが、警察という権威が「むこうでは当たり前らしい」との情報を流し、マスコミがまことしやかに垂れ流して一般社会に広げる構図は、いかがなものか。特定の個人の話をブラジル人全体に置き換える論法は「外国人嫌悪」(ゼノフォビア)に他ならない▼世界金融危機では、どこの国でも外国人嫌悪がおきやすい状況にある。不景気になるほど移民は迫害されるが、大手メディアが先導していいのか▼スペインのEFE通信二十七日付け記事よれば、不況時は〃高給〃の合法就労者が迫害され、安く使えるビザなし外国人労働者に入れ替える動きが強まり、労働者への人権的配慮が減るとの専門家の指摘が掲載されている▼こういう時だからこそ、外国人への先入観を疑う姿勢を求めたい。(深)