ニッケイ新聞 2008年8月12日付け
高齢化や福祉への取組みが進み、社会構造変化への対応が叫ばれているが、段差や障害物を取り除いた建築が注目されるなど、予防という視点の必要性も高まっている。
その意味で、十日エスタード紙の、家族健康計画(PSF)浸透で入院患者減少の報や、十一日同紙の、サンパウロ市の歩行者事故は道路での転倒が最多という報は気にかかる。
PSFの方は全国調査の経過報告だが、一九九九年と二〇〇六年の比較では、肺炎や喘息、下痢などによる入院患者減少とPSF浸透率とに相関関係がみられるという。
例えば、PSFが人口の七〇%をカバーする所では四十歳以上の人の心臓疾患による入院は五・四二%減少。一方、PSFのカバー率が二〇%以下だと、減少率は一・九五%。また、中西部のPSFのカバー率は、二〇〇一年の二%から二〇〇六年には四五%に伸び、喘息による入院患者は、一〇万人当たり一四〇人から六〇人に減少した。
PSFでは、医師や看護婦などで作ったチームが家庭訪問も含め、地域密着型の医療活動を行なうが、デング熱の流行阻止にもPSFによる取組みが効を奏したと三月二十一日付け本紙でも報じたように、予防医学面での効果も大きい。
ところが、医学教育の現場では、診断、治療の指導が中心で、予防医学の専門家は不足ぎみ。PSFの現場では、予防医学の知識と総合的な診断力とを兼ね備えた医師が必要だが、そのような医師育成には、医学教育の内容と研修のあり方の両方に改善が求められる。
一方、サンパウロ市の舗道には段差や穴、割れた下水道の蓋など、簡単に躓きそうな場所がそこここに。二〇〇七年統計では、公立病院での高齢者入院は過去二年で八三八六件から九四〇〇件にと一二%増え、最大の原因は舗道での転倒。クリニカ病院救急外来でも、一カ月の交通関連患者五四八人中二四二人が歩行者で、車にはねられた一一六人、舗道での転倒一二二人と、転倒の方が多い。
特に、高齢者は僅かな段差でも転倒し易く、ケガもひどくなり易い。時には、死亡事故につながることもある。また、車椅子での移動などにも障害になる道路の整備不足は、行政機関や家屋所有者の注意で改善できる。安全で安心して生活できる環境や空間作りに予防の視点は不可欠だ。