ニッケイ新聞 2008年8月7日付け
「コロニアの底辺にいる恵まれない日系老人の立場を考えて欲しい」――。先日、ある読者から悲鳴にも似た手紙が編集部に寄せられた。これは、日系団体の加入者を対象に、安価な掛け金と保険扱いの幅広さで人気を呼んできたプラザッキ社の保険プランに対する訴えだ。同プランは、サンタクルス病院の子会社にあたる同社が独自に運営しているもので、〇三年から、老ク連や援協の団体加入を通して、日系高齢者の契約を積極的に増やしてきた。しかし、プラン設立当初から不採算状態が続いたため、今年、掛け金の大幅値上げを実施した。七十歳代の夫婦の例(個室)で、昨年九月から六〇%近く掛け金が上昇している(某加入者談)。この決定に対し、プロコン(消費者保護センター)に訴えた人も出るなど、一部の日系高齢者から困惑の声が広がっている。
プラザッキは、一般の個人保険よりも〃破格〃の安価な掛け金を設定し、援協や老ク連といった日系団体を通して契約者を増やしてきた。サンタクルス病院ほか、日伯友好病院(現在は緊急診察のみ受け付け)、援協の総合診療所など、おもな日系医療機関に対応することも人気に拍車を掛けた。現在、両団体合わせて約千五百人加入している。
しかし、こうした魅力的な条件に加えて、同プランでは、他の保険会社が敬遠するような高齢者の新規契約も前向きに受け付けたこともあり、不採算運営が慢性化した。そのツケが現在になってまわってきたようだ。
掛け金の値上げに関しては、同社と各団体交渉の上、毎年一度実施するのが通常だ。今年は例年どおり、約一〇%ほどの値上げで落ち着き、老ク連など関係者をホッとさせていた。しかし六月、全年代を対象に、三〇から五〇%にもおよぶ更なる値上げ実施が決定、通知書が各契約者に一方的に送られた。編集部に寄せられた一般契約者の手紙によれば、その理由として「保険会社の運営継続が困難なため」と説明書きがあった。
この手紙には、ここ五年間での調整額の具体例が記してある。夫婦の個室利用で、加入当初の〇三年六月で三百十四レアル。〇七年九月で、三百九十五レアル。投稿者が七十歳の誕生日を迎えたたことを受け、同年翌月から五百八十六レアルになった。加えて今年四月の調整で、六百四十三レアルになり、そして六月、九百二十レアルに大幅値上げとなった。
団体を通した保険契約は、加入契約や支払い手続きをその団体が仲介することもあり、個人契約よりも掛け金の安さが特徴。しかし、関係者によれば、法律上、個人の保険料調整額は年間一一%アップまでとされるなか、団体保険にはその上限がないという。老ク連幹部らは同社と何度も交渉を重ねたが、譲歩は難しかったという。
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「掛け金を支払えないものは去れとでも言うのか」。「値上げするつもりならば、一年から二年と時間をかけて、段階的に目標の調整額にあげていくべきだ」。男性がそう訴えるように、現に老ク連では、同プランの契約を打ち切る人が出た。援協事務局にも数件、苦情が寄せられた。プロコンに訴えた人もいる。
しかし、こうした困惑の声が出る一方、老ク連や援協では、プラザッキ側の苦しい運営状況と値上げに理解を示す。ある老ク連関係者は言う。
「この保険に加入するまでまともに病院に通えなかったような高齢者たちが、これよしと、気軽に次々と検査を受けようと病院を利用し始めたのも原因です。それに、一日五千レアルかかるといわれる集中治療室や、数万レアルかかる外科手術もタダで受け付けてくれるわけですから、赤字になるのも当然。むしろ私たちは同社のこれまでのサービスに感謝すべきです」。
また、援協関係者は、「プラザッキの掛け金は市場価格に比べて異常に安かった。今回当局が、値上げを許可したのも当然でしょう。これで他の一般的な保険料と同じになったことを思えば、プラザッキに寄せられている訴えにも同情できる」と話している。
なお、プラザッキの担当者に同プランについて問い合わせたところ、値上げの事実について明言を避けたうえで、「今後の展開や詳細はまだ決まっておらず、こちらから直接広報するのは難しい」とのコメントだった。