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ミスは誰にも起きるけど=誤認警官連射で3歳児死す=号泣する父の姿が涙誘う

ニッケイ新聞 2008年7月9日付け

 車を脇に寄せパトカーに道を譲る。ところが、そのパトカーが目の前に横付けし、銃乱射。こんな悪夢が長男の誕生日目前の家族を襲った。
 七、八日伯字紙によると、リオ市チジュッカで六日夜、窃盗犯追跡中の警官が、九カ月と三歳の二人の男児を連れた母子三人の乗る車を犯人の車と誤認し、パトカーを降りた警官二人が自動小銃とピストルで十六発連射。驚いた母親は、自らも被弾しながら幼児用バッグを窓から投げ出したが、警官は気づかず、捨て身で飛び出した母親を見て連射を止めた。
 この時点で「あんたたちは息子を殺した」と叫んだ母親。三歳のジョアン君を襲った弾は、首筋から入り、前頭部にまで達していた他、臀部と左耳にも被弾していた。
 最寄の病院で脳内の血と弾を除去した後、別の病院に移送されたジョアン君は未明に心停止。蘇生処置がとられたが、脳死となった後、七日午後四時半に死亡した。
 二十九日は長男の誕生日だから少し稼ごうと、休みの日曜日も仕事に出かけたタクシー運転手の父親は、事件直前に現場付近を通過。銃器を手にした警官の乗るパトカーを見て話し掛けてきた客に「この町から出たくてしょうがないんですよ」と答えた直後、妻からの知らせを受けたという。
 現場は、家族の住むアパートのすぐ側。救急隊は九カ月の弟を住民男性に託し、ジョアン君と母親を病院に運んだが、赤ん坊を託された男性は、駆けつけた父親に手渡すまで、髪の毛に散ったガラスの破片を取ってやったりしていたという。
 目撃者は、それ以前の撃ち合いはなく、誤認に気づいた警官は頭に手をやったというが、警官らは、窃盗犯との撃ち合いの最中に被害者の車が侵入してきたと供述。虚偽の供述で保身を図る姿は市民の安全を守るという使命からは程遠いが、「チジュッカのような犯罪多発地帯では、市民の安全よりも犯人の逮捕や殺害が重視される」との特殊部隊前隊長発言に、警官の訓練、教育の問題とともに、心理的側面やリオの治安政策の考え方が反映されている。
 長男の死に号泣し、正義をと訴える父親には州保安局長が七日に謝罪。「州知事も胸をいためている」と伝えたが、警官による無実の市民の死が一月半に少なくとも五件というリオ。わが身を守るのが警官の勤めとは思いたくないもの。