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〃一流に触れる〃機会得た=サンパウロ日本人学校=能楽師の正之助さんに学ぶ

ニッケイ新聞 2008年7月3日付け

 大鼓素手打ちの独奏という独自のスタイルを貫き、ロックやジャズ、クラシックなど幅広い分野で世界中の音楽家と共演する、能楽囃子大倉流太鼓の大倉正之助さん(53・東京)が、六月二十五日、サンパウロ市カンポリンポ区のサンパウロ日本人学校を訪れ、小中学部の児童・生徒ら約百五十人を対象に、鼓(つづみ)打ちのワークショップを開いた。児童・生徒らは大蔵さんが日本から持参した大鼓、小鼓に興味津々、はじめて見る日本の伝統楽器を手にとり、それぞれが個性溢れる音色を響かせた。
 「この楽器はなんという名前かな」。袴姿で現れた正之助さんは、同校の音楽室にあつまった生徒らに明るく問い掛けた。「小包とは濁点の位置が違うよ。〃つづみ〃と言うんだ。日本の伝統的な道具(楽器)の一つだね」。ユーモアを交えた解説に緊張気味の生徒たちから笑みがこぼれた。
 室町時代から六百五十年続く能楽囃子(太鼓・小鼓)の家に生まれた。大蔵流十五世宗家故大倉長十郎の長男として、九歳で初舞台。重要無形文化財総合認定保持者。能楽の枠を越えた革新的な活動をする傍ら、伝統的な鼓の世界観や音色を子どもたちに知ってもらおうと、三十年ほど前から世界各地の学校をボランティアで訪れている。
 心地よく抜ける音が音楽室に響いた。表情を引き締めた正之助さんが打った鼓の音色は、一瞬でその場の空気を引き締めた。「大事なのは静寂と間。日本の美は空白と余白にあるんだ。鼓でも書道でも同じ。何もないところに何かあるように感じさせるのが特徴」。正之助さんの解説に、生徒はじめ教師や保護者らはハっとした表情でうなづいた。
 鼓の歴史と独特なリズムの説明後、生徒一人一人が前に出て鼓を打った。緊張の面持ちの生徒たち。「息を吸って吐いて」「いい音だ。よしもう一回」。〃○くん、○さんの調べ〃と題して、生徒たちは思いおもいの音色を響かせた。「みんなの幸せを願えば、その気持ちにあった音が響くんだよ」。
 正之助さんは、「同じ形をしている鼓でも、一つ一つ音が違う」と言った。天候や演奏場所によっても音色は異なる。「そうした違いを認めることが大事。大昔の日本人が大切にした価値観が鼓に込められている。グローバルが進む世の中で大切なこと」。ワークショップ後、正之助さんはこう想いを述べた。
 同校でのワークショックは、各分野で活躍するゲストを招き、〃一流に触れる〃機会を子ども達に与えようと実施する同校の特別授業「ビバ・カンポリンポ」の一環。国際交流基金が協力した。
 中学部の渡辺栄子さん(14)は「たいこはみんな同じだと思っていた。実際に大鼓(おおつづみ)を打ったら、ずしりと心に響く音が鳴りました」と笑顔をみせた。