ニッケイ新聞 2008年6月19日付け
ついに百年目の移民の日を迎えた。「移住とは壮大な民族的実験である」とはニッケイ新聞の基本的な考え方だ。二十五万人の日本移民がどのように大地を耕し、苦労し、創意工夫して日本語や日本文化を残そうとしたか。二世たちはどんなアイデンティティを形成し、どのように根を張ったか▼ヤキソバ祭りしかり、日々の営みに日本を思う心が宿っている。それを積極的に取材し、今後の日系社会の方向付けについての議論を提言し、過程を書き残すことは、地元邦字紙の宿命だ▼思い返せば、必ずしもコロニアが一致団結して準備を進めた百年祭ではなかった。特に一世と二世の不仲が顕在化し、二世中心の祭典準備が行われてきたことに不服を持つ人も多い。そのような現実を受け入れ、書きとめ、次の百年に向けて考える材料にすることも邦字紙の役割だ▼おそらく不仲の背景には、世界中の移民が抱える永遠のテーマがあるように思える。移住先国と祖国の文化の混合バランスをどうするかという問題は、日系人に限ったものではない▼数千人規模の日系社会では、三世代で継承文化をほぼ失うという傾向は明らかだ。世界の二百六十万日系の三分の二を占める、百五十万日系社会を持つブラジルは、どう残せるかという貴重な試行錯誤が許される数少ない場所だ▼和太鼓、日語教育、日本舞踊やYOSAKOIソーランしかり。今ここでしかできないことを、しっかり後継世代に伝えていく事は本当に重要で尊いものだ。いずれそれが数十年後にはブラジル発の日系文化として花開き、世界的に評価される日が来るかも知れない。それこそが「壮大な実験」だ。(深)