ニッケイ新聞 2008年6月6日付け
定年退職後の趣味が嵩じて、第一回移民船「笠戸丸」の模型を製作している日本人がいる。パラナ州クリチーバ市在住のコチア青年、山村泰夫さん(66、広島県出身)。模型は原寸大の八十分の一、全長約一メートル五十二センチ。昨年、クリチーバ文協の卓球仲間の勧めと兵庫県ブラジル事務所(山下亮所長)の依頼を受けて作り始めた。笠戸丸の精巧な模型は、サンパウロ市の移民史料館、愛知県の博物館明治村に展示されているものに次いで、三作目とみられる。現在、仕上げ段階にあり、完成模型は今月十八日、皇太子さま列席のもとブラジリアで開かれる百周年記念セレモニーで披露される予定だ。
山村さんが経営する健康食品店の倉庫が作業場。精巧につくられた完成間近の模型は、マストから甲板、操舵室まで、細部の一つひとつが精巧に作られていた。
模型作りにあたり、兵庫県ブラジル事務所の山下亮所長らの仲介で、笠戸丸研究家の宇佐美昇三さんが協力した。宇佐美さん提供の資料をもとに設計図をつくり、今年二月から本格的に組み立て始めた。
「ジャングルで大木を切り出している先輩移民の写真に影響された」と山村さん。先達移民の気概に感動し、材料はすべて自分で調達、手持ちの工具だけで仕上げている。自宅に部品を持ち帰り、徹夜することも。
材料は木材が中心で、細部にプラスチックや銅線などをつかった。苦労した積荷用のクレーンの歯車作りは、細かく筋が入ったペットボトルの蓋を加工した。六月三日現在、ほぼ組み立てを終えており、残りは舷側部の手すりと救命ボートを取り付けるだけだ。
山村さんは、先に渡伯していた兄の呼び寄せで、一九六五年八月神戸出港の「ぶらじる丸」で渡伯した。ジェームス・ディーン主演映画「エデンの東」で、広大な台地に大豆を植えるシーンに憧れた。
サンパウロやパラナ州の各地で農業に従事、八九年にバタタ栽培がうまくいったのをきっかけに、日本へ。休暇を兼ねた一年の滞在を変更し、トラック運転手、デカセギの世話役として働いた。
〇二年、定年退職して帰伯。現在、クリチーバ市の郊外で妻と娘、孫と暮らし、健康食品店を営む。模型作りは小さいころからの趣味、定年退職後の楽しみにしていた。
力作の模型は六月十八日、皇太子さま、ルーラ大統領列席の記念セレモニーで披露される計画。「半分信じられない。調査を手伝ってくれた先生や関係者に顔が立ちます」と笑みをこぼした。
式典後、同模型は兵庫県ブラジル事務所で展示し、来年の移民の日までの完成を目指しているクリチーバ市内の日本公園に移される予定。