ニッケイ新聞 2008年5月29日付け
ブラジル出身の演歌歌手、南かなこさんのブラジル凱旋公演「ふるさと帰行コンサート」が二十一日から国内四都市で行なわれた。「歌手になってブラジルで公演する」というデビュー以来の夢を実現した南さん。文協大講堂一階を満員にした二十一日の舞台では、最新曲の「ふるさと帰行」など十五曲を熱唱。ステージ後半、感涙にむせぶ南さんの姿が来場者の胸を打った。
七年振りに里帰りした南さんは二十日に着聖後、二十四日までに文協、サンベルナルド、ロンドリーナ、カンポ・グランデの四都市で公演。サンパウロ市、サンベルナルド、ロンドリーナで市議会からオメナージェンを受けた。
サンベルナルドは約五百人、カンポ・グランデは約四百人が来場。生まれ故郷のロンドリーナ公演では八百人近い人達が訪れた。
皮切りの文協公演には約七百人が来場。ツアー実現に奔走したABRACの西森明美会長は開会式で、ブラジル公演の夢をかなえた南さんの努力を称え、コロニアの歌い手達に「皆さんも夢をもって頑張ってください」とあいさつ。続いて、ブラジル行きにあたり事務所の先輩、小林幸子さんにもらったという振袖に身をつつんだ南さんが登場すると、会場から大きな拍手があがった。
会場となった文協講堂は、自身が十歳の時に歌謡大会で優勝した思い出の場所。南さんは「ブラジルで応援してくれた人たち、家族、友人皆のおかげでこのステージに立っています。百周年記念の年に来られたことも嬉しい。今日は皆さんに『日本』を感じてほしい」と呼びかけた。
第一部では最新曲「ふるさと帰行」、小林幸子の「雪椿」のほか、デビューを見ることなく亡くなった祖母が好きだった美空ひばりの曲「お祭りマンボ」、六歳の時に初めて大会で歌った演歌「演歌道」(松原のぶえ)など数曲を披露。
続いて薄紫色のドレスに着替えて客席から登場し、来場者と握手を交わしながらデビュー曲「居酒屋サンバ」を熱唱した。
舞台へ戻り、会場全体で「ふるさと」を合唱。続いて、サントス、ロンドリーナを舞台に移民の思いを歌った「愛愁ルンバ」をポルトガル語で歌うと、一際大きな拍手が送られた。
十二歳で訪日した南さん。曲の合間には三歳ではじめて童謡唱歌を歌ったことなどブラジル時代の思い出、二十二歳でデビューするまでの苦労など自身のエピソードも紹介。日本語・ポルトガル語を交えた観客との掛け合いが会場を沸かせた。
公演に先立ち各地で行なわれた南さんの曲を歌うコンクールで優勝した大橋サユリさん(サンパウロ市)、タンゴダ・リリアンさん(グアララペス)との共演もあり、会場を盛上げた。
再び着物に着替え、舞台では初めてという日舞を披露。マイクを握った南さんは、「移住して辛い事も多かったと思います。そんな中、ブラジルで日本文化を伝えてきたことを誇りに感じます」と先人へ敬意を表すとともに、「私の使命は皆さんの思いをこれからの世代の人たちへ伝え、つなげていくことだと思います」と力を込めた。
喜びのあまり感極まって舞台上で涙を流す場面もあったが、続けて「今一番頑張っている曲」と「ふるさと帰行」を熱唱。アンコールの「かなこの祭りだワッショイ」では所狭しと舞台を動きまわり、公演は大盛況のまま幕を閉じた。
当日は南さんの日舞の師匠、花柳寿り翔さんの両親の隈下俊治さん、英子さん夫妻も会場を訪れていた。訪日以来十五年ぶりに見た南さんの姿に、英子さんは「孫が大きくなって帰ってきたようです」と満面の笑みを浮かべる。
会場には、母親の艶子さんの姿もあった。「出かける前に母の仏壇にお参りして『孫のコンサートを見守って』と話してきました」という。
「娘は『明日どうなろうが、とにかく今日の感謝の気持ちを伝えたい』と話しています。毎日思っていると思いますよ」と話す艶子さん。「文協の舞台で小さい頃の思い出がよみがえっているでしょう」と娘の気持ちを推し量り、「やはり嬉しいですね」と感慨深げな表情を見せた。