ニッケイ新聞 2008年4月1日付け
日系社会の「よろず相談所」といえば、サンパウロ日伯援護協会の福祉部。内容は、浮浪者の世話から生活、困窮家族、児童、就職、結婚、医療、精神障害、年金、法律、身分証明書、葬式などさまざま。最近はどんな相談が寄せられているだろうか。
「もっとも多いのは高齢者問題です」。福祉士の八巻和枝部長によれば、年間四千件ほどある相談のうち、三分の一が、高齢者介護や施設入居に関するものだ。ただ、その内容もここ数年様変わりしてきた。
「三、四年ぐらい前までは、六〇から七〇代くらいの若くて元気な高齢者が自分で福祉部にやってきて、援協の施設に入りたいという人が多かったです」。
その理由の多くが「家に居ても寂しくてつまらないから」だった。例えば、定年退職して時間と少しの金はできたが、いっしょに暮らす息子や娘は非日系のブラジル人と結婚。孫が居ても、一家の会話はポ語ばかりといったケース。
「子どもたちは働いていたり、学校にいったりと、昼間家にいても話し相手がいないわけでしょ。ポルトガル語もうまくできない。それで一日中テレビを観る生活になったりして、寂しいというわけです」。
しかし最近はそうした相談よりも、介護に困り果てた家族が診療所やって来ることが多くなったそう。
年齢も八〇代から九〇代で、認知症や身体障害があったり、排泄や着替え、食事など、身の回りの世話全部が必要な日系高齢者の家族が相談に来ている。「仕事もあるし、介護に疲れたので両親の面倒を代わりに看て欲しい」といったものだ。
こうした相談は増加傾向にある。事実、要介護の高齢者に多く対応している援協の「あけぼのホーム」は、入居者待ちの状態だ。
この種の相談に八巻部長は、「できるだけ家族や親戚が協力し合って介護を続けて欲しい」と話している。福祉部の援護費に限りがあり、誰でもかんでも引き受けられないからという。
援協には四つの高齢者向け施設があるが、すべてが赤字運営。入居費用を全額払えない人も受け入れているためだ。その補填は、福祉部の予算や各種イベントの売上げから充てている。
そのため、入居希望者の窓口となる福祉部は、費用を全額払える人はともかく、できるだけ身寄りがいない人を優先している。これにも念入りに身の上を調べたうえだ。
福祉部が仮に、全額扶助が必要な入居者を「責任持って」引き受けたら、何年続くか分からない月額経費の援助に加えて、突然の出費をも覚悟しなくてはいけない。
例えば、入居者が骨折したり、ガンにかかったら、友好病院で治療をする。その費用が一回で数十万レアルにのぼることもザラ。具志堅茂信事務局長によれば、そうした費用は「財政状況に応じて払える分だけお願いしている」。しかし中にはまったく払えない入居者もいるため、その場合は援協が丸々負っている。
こうしたことが可能なのも、友好病院が黒字経営を維持していることにあるが、競争激しい医療業界のなかで、ずっと続けられる保証もない。福祉部の予算も、会費、総合診療所の収益、日本政府の移住者保護者基金などから賄っているが、十分な予算確保は難しいという。
「福祉部に相談に来る家族のなかには、『なんですぐに施設に入れてくれないんだ』と文句を言う人もいます。国が本来やるべき仕事を援協がやっているわけですし、限られた予算のなかで、本当に優先しなくてはいけない人を慎重に選ぶ必要があるんです」と八巻部長は理解を求めている。