ニッケイ新聞 2008年3月28日付け
隣のいわしは、いつも大きくて美味しそうだ。亜国の経済成長率八%と聞いたとき、羨ましいと思った。しかし、内容はよくないらしい。クリスチナ大統領は就任して僅か百日だが、強力な農業生産者のロックアウトに突き当たり苦戦して十五日になる。
大統領官邸前は毎日、鍋叩きの大合唱。以前のロックアウトは、労働者の権利要求に対し会社が生産を停止して対抗するものであった。しかし、ラテン・アメリカでは政府を揺さぶるために使われる。
最も有名なのは一九七二年、チリーでアジェンデ政権転覆のために行ったトラック運転手のロックアウトだ。亜国のロックアウトは政治的含みが強いが、経済政策が原因なのは明白といえる。政府が課した食糧と石油の輸出税の減税または免税が、目的である。
このロックアウトは、中流階級がインフレで疲弊した消費力を挽回する経済政策を揺るがした。亜通貨ペソの高騰を避けるため政府は為替固定制を導入し、コモディティの生産を奨励した。一ドルが三・一七ペソなのだから、輸出業者や農業生産者は大喜びをした。ここから政府は輸出税を取ろうと考えたようだ。
だが、驚くべきインフレを招いた。国民にインフレを隠すため、捏造インフレ率七・五%と発表。しかし、実勢は二四%も高騰した。サラリーと物価上昇を押えるため物価統制を行った。ブラジルが、いつか歩いた道である。
もう一つの問題は、投資の停止だ。こんな状態で何をしても、儲かるはずがない。そこへエネルギー危機による停電の連続。誰も投資をしないのだから、当然の結果だ。金融市場も国債の配当がインフレで帳消しのため、死に体状態にあった。いまや国民の食うものにも事欠いている。