ニッケイ新聞 2008年2月19日付け
ちょっと前の話なので恐縮ながらカルナバルのときに海に下りた。あの狂躁を避けるためにというよりは、群青に染まる海原を眺め美味に酔える魚料理で胃の腑を満たしたかったからである。その日は天気も良く蒼穹の天が果てしなく広がり、海岸山脈の緑も力が強い。街道の両脇には今を盛りとクァレズマが咲き乱れ、白と薄紫の花びらが美しい。そう―もう秋なのである▼サントスでは、若い頃に移民船の取材の折に遊楽した旧市街を通り抜け懐かしのポ・ダ・プライアでは魚市場を楽しむ。やはり―生きがいい。目が輝き色彩が鮮やかだし今、海から上がってきたばかりの印象が濃い。3キロほどのヒラメとガロッパを求めイゾポールの箱に氷をいっぱいにして詰め込む。次はバルサに乗って対岸のグアルジャへ▼この町も変わった。大変貌である。その昔、この近くだと思うのだが―アリアンサの事務局長・故椎野二郎さんや西原パウロさんらに連れられキャンプや魚釣りもやった。椎名夫人は、純粋の2世?だけれども、海岸の砂浜で確か山岡壮八の「徳川家康」を読んでいる。あの十数巻の大長編だし、唯々、恐れ入ったものである。それほどに寂れたところだった。それが今や大繁華街になり観光客が絶えない▼もう目的地はすぐである。小さな漁村で魚の店も多い。ここも新鮮で口福に浸れること請け合いである。ポウサーダをも営む食堂でバデジャの煮物に舌ずつみをうちカイピリニャの酔眼で帰聖。数日後、出勤するとミニョコンの道端に咲く紫紺野牡丹が紫を濃くし満開ではないか。東洋街にある三重県橋からの眺めが素晴らしい。(遯)