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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(77)

ニッケイ新聞 2014年1月14日

真黒く日焼けした男がビール瓶を持って来た。

「御酌させて下さい。今日は有難うございました。近辺の方が集まり慰霊祭が行われ、その後、こんな盛大な宴会で・・・、こんなに楽しんだのは日本を離れて初めてです」西谷が持ち上げたコップと、真似して持ち上げたほとんど手付かずで泡の分だけ下がった中嶋和尚のコップにビールを満たした。

西谷は注がれたビールに一口つけて、

「お名前は?」

「尾山です」

「!、とすれば、ジュータの父と云われた尾山良太さんのご親戚ですか?」、

「親戚です。一度、日本を訪れた時から、アマゾンに来いと尾山良太の三男で・・・、父の叔父にあたる方で、今、アマゾンのパリンチンスの町に住んでおられる尾山多門さんから誘われ続け、平和な岡山から六年前とうとう来てしまいました。今、ここで果物の大規模栽培に挑戦しています」

「とすると、・・・、おたくは・・・、尾山良太の曾孫ですね!・・・、で、どうですか、果物栽培の調子は」

「難しいですね。狂い咲きと云うか、同じ種類でも花がつく時期がまちまちで、大規模な機械化なんて到底考えられません、大弱りです。一株一株収穫時期が異なりますからね、もう、メッチャクチャです。鍬を投げ出して岡山に帰ろうかと思っています。ですが、今日のこのドンチャン騒ぎを見て、・・・、少し気が変わりましたよ」

「それは、それは本当によかったですね」

「それに、トメアス混合農業組合が誕生し、他の農場ではアグロフォレストリーと云う農法で結果を出していますし、将来、見込みがあるのではと思いますが、あの狂い咲きだけはまいりました。あれをどうにかしないと・・・」

「ブラジル新聞の特集記事に『アグロフォレストリーに行きついたのは、戦前から今日まで、永年に亘ってアマゾンと戦い、アマゾンにのまれながらも試行錯誤して来た日本人達の努力の結晶だ』と日本人を称えるメッセージが載っていました。アマゾンと融和し、アマゾンを尊重した農法がやっとアマゾンに受け入れられたのですね」

「私はJICA(ジャイカ、日本国際協力機構)主催の研修に招かれましてね。その素晴らしさをこの目で確かめました」

「どう云う方法ですか?」

「アグロフォレストリーの生産方法は、熱帯果樹、例としてカカオや一年性作物等とアマゾン在来種の樹木や植物とを混植栽培するのです。それで、森の中の畑となり、生物多様性が効を奏して、土壌湿度の保全、農薬の削減、防風、涼しい労働環境とか、多くの恩恵を生み、周年生産で収入を安定させ、このトメアス一帯では百戸以上の日系農家に普及しています」

西谷は昔を顧みて、

「私は三十数年前、アマゾンの自然に真っ向から戦いを挑み、四年で敗北してしまいました。あれは当然の結果でしたね」