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ニッケイ新聞編集部が選んだ=2007年コロニア10大ニュース

ニッケイ新聞 2007年12月29日付け

 「猪突猛進」の勢いで始まった二〇〇七年も暮れようとしている。「百周年への仕上げの年」と位置付けられた今年、国内各地で来年に向けた準備が急ピッチで進んだ。現在、かつてないほどの記念事業が進行しているが、サンパウロはもう一つ元気がない様子。皇太子殿下のブラジル訪問も発表され、百周年・交流年に向けた日伯両国の話題が伝えられる一方、帰伯逃亡デカセギ問題の国外犯処罰要請はすでに四件を数え、そのうち一件は判決が出された。日本の国会議員が続々来伯、文協会長選、日系人大会などめまぐるしく動いたこの一年。年末にあたり、今年も編集部が選んだ十大ニュースをお届けする。

(1)百周年=本番に向け準備すすむ=地域によってばらつきも

 来年の日本移民百周年に向けた「仕上げの年」と位置付けられた〇七年だったが、地域によって準備にはばらつきが目立った。
 一昨年来、連邦政府に着々と根回しを進めてきたパラナ州百周年委員会は、観光省から計一千百五十万レアル(約七億円)の支援を年末に決めるなど華々しいラストスパートを飾った。州内の全日系世帯から式典費用として三百レアルずつ集めるキャンペーンも進行中で、連邦政府と州内コロニアの歯車がかみ合った好調ぶりをみせる。
 また、リオ州では浜松大凧揚げや記念碑建立、ミナス州は日本庭園や新会館建設や百周年記念館、バイア州も日本庭園や野口英世博士の胸像、南マ州では老人共生センター、ブラジリアは記念誌や日本文化スペース建設など、百周年にふさわしく各地で記念事業やイベントが企画されている。
 一方、サンパウロの百周年協会は年末に、サンパウロ市役所が式典会場となるサンバ会場などの無償利用を金銭に換算して四百万レアル(二億円)を正式に計上するなど、一定の成果は見られたが、主催事業の総予算である九億円余の大半をこれから集金することを考えれば、ラストスパートどころか〃大どんでん返し〃といえるぐらいの必死の追い込みが大いに期待される。
 もしくは開き直って、主催は最低限の記念事業と式祭典に縮小するかの選択を迫られそうだ。
 そんなサンパウロだが、支援・共催事業などに関しては、年間を通して二百以上の記念行事などが予定されている。日伯交流年の関連行事とあわせ、記念イベント花盛りの豪華な一年になることは間違いなさそうだ。

 (2)国外犯処罰=浜松の事件で判決出る=ブラジルへの要請4件に

 帰伯逃亡デカセギ問題は今年、日本政府の要請に基づく国外犯処罰(代理処罰)で初めての判決が下されるなど大きな進展を見せた。
 二月、九九年に静岡県浜松市で起きた女子高生死亡ひき逃げ事件で初めての公判が行われ、被告は起訴事実を大筋で認めた。日伯両国から多数の取材陣が駆けつけ大々的に報道したのは記憶に新しい。
 続いて三月には、浜松市で〇五年に起きたレストラン店主殺害事件について初公判が開かれ、十二月の裁判で禁固三十四年五カ月の判決が被告に下された。初公判から九カ月あまりでの判決は、「逃げ得は許さない」とする日本側の声にブラジル当局が誠意をもって応えた形となった。
 十一月と十二月末には、静岡県焼津市のブラジル人母子三人殺害事件と〇三年七月に長野県松本市で起きた強盗殺人事件についても相次いで国外犯処罰の要請がなされた。一連の問題は来年以降も日伯のマスコミを騒がせそうだ。
 〇七年末現在で、日本政府からの要請は四件目を数えた。しかし日本国内で犯罪に関与した後に国外に逃亡したブラジル人容疑者が九十人以上にのぼる実態もあり、明るみに出ているのは氷山の一角といえる。
 ただこうした現状にも、犯罪人の引渡しがブラジルの憲法で認められていないことを踏まえれば、国外犯処罰が一連の問題の現実的な解決方法となるのは間違いなく、今後は両国における司法手続きの簡略化などが求められる。

(3)文協会長選挙=上原体制、三期目に

 文協改革を掲げ、二〇〇三年から二期会長を務めた上原幸啓会長が、初の評議員(百六人)の投票による間接選挙で二候補を抑え、三選を決めた。
 一度、上原氏が出馬の意思がないことを表明したことで渡部和夫評議員は、大原毅評議員会長を会長に擁立しようと水面下で説得を行なったが、これに失敗。再度上原氏を立て、選挙に臨んだ。
 一世会員らを中心とする「しんせいきのかい」は、会員投票による評議員選挙で最多得票の高木ラウル氏(ニッケイ新聞社長)を擁立。一方、小川彰夫・文協副会長は上原体制に反旗を翻し、地方文協などをシャッパに引き入れ、三つ巴の戦いとなった。
 なお、渡部氏は評議員会長に就任した。新理事会には、「しんせいき―」側から、四人の理事が入ったが、新風を期待する会員からはため息も聞かれた。

(4)「VIVA・JAPAO」始まる

 サンパウロ州政府教育局がブラジル日本移民百周年を記念し、〇七年二月に発表。翌月からスタートした日本文化教育プログラム。予算は三百万レアル(百五十万ドル=約一億五千万円)。
 州内公立五千五百校、六百万人の生徒を対象としており、授業の各科目のなかで日本について学ぶ。発表会として各校で文化祭が催された。
 三百五十校の五十万人(〇七年十二月現在)が参加。現在の日本ブームを反映してか、生徒たちの反響も大きく、教育局は一年延長を検討している。
 同プログラムを提唱したのは、十歳で福岡県から移住した日野寛幸・教育局企画・予算担当。
 かつて、公立校で特定の国や民族を取り上げ、教育のテーマとしたことがないことから、「批判を受けるのでは」と危惧していたが、今まで一件の苦情もないという。
 世界に類を見ない親日国であるブラジルは、百周年を機に、教育を通じた将来の友好関係を約束した。
 なお、〇八年六月二十一日にサンパウロで行なわれる百周年式典で優秀校が表彰される予定となっている。

(5)今年も議員来伯ラッシュ

 中川昭一農水相、竹中平蔵総務相、扇千景参院議長はじめ多数の国会議員が来伯した〇六年に続き、今年は五月に故・松岡利勝農水相(帰国後、同月二十八日に死去)、八月に麻生太郎外相、菅義偉総務相など閣僚クラスが相次いでブラジルを訪問。このほか七月には永岡桂子農水政務官、八月には衆院文部科学委員会の視察団、また県知事も五人ブラジルを訪れるなど、百周年を前にした政治レベルの日伯交流再活性化を印象づけた。
 その一方、四月の緒方貞子JICA(国際協力機構)理事長来伯では、日本政府の移住事業縮小の方向性があらためて明らかになった。将来的なサンパウロ支所閉鎖も噂されている。百周年以後の日本と日系社会の関係はどうなっていくのか――。表面的な交流で終わることなく、在日ブラジル人社会の問題も含め、未来につながる関係構築に向けた議論が待たれる。

(6)躍進する二世たち

 今年もブラジル内における日系二世の躍進が続いた。
 昨年に引続き軍関係では、年明け早々に斉藤準一空軍大将(64)が、空軍トップの総司令官に就任。十一月にはレジストロ出身の柴田アウグスチーニョ氏(61)が空軍少将の地位に就いた。
 法曹界では、クリチーバの第九地方労働裁判所長官などを務めた経験を持つ、小野フェルナンド英三氏(58)が連邦高等労働裁判所の判事に就任した。また、日系女性として初めて、ロンドリーナ地方裁判所第二刑事法廷長官を務めていた前島リジア氏が、パラナ州の州高裁判事に任命された。
 連邦議会では三人の下議が活躍、躍進は政・法・軍にとどまらない。日本移民の子弟教育への熱意が、百周年を前に花開きつつある。

(7)文協で初の在外選挙

 六度目の在外選挙となる第二十一回参議院議員通常選挙が七月に実施された。選挙人登録者一万二百六十四人、世界最多を誇るサンパウロ総領事館では、三回目の公館投票にあたり、会場をこれまでの総領事館ビルからリベルダーデの文協ビルに変更。衆議院補欠選挙も合わせて行われ、大講堂とサロンを使った会場には連日平均二百人の有権者が訪れた。
 公館以外が投票所として使用されるのは世界で初めてのこと。同じく公館外が投票所になったロスでは、選挙に先立って日本の政党関係者による政局討論会も催されるなど、初めて尽くしの在外選挙だった。
 身近な文協ビルでの投票ということもあり、投票の伸びが期待されたが、サンパウロでの公館投票数は比例一九五六票、選挙区一六三五票で前回〇五年の衆院選を下回る結果に。ブラジル全体でも比例二五八八票、選挙区二二四二票と、前回以下に伸び悩んだ。
 総領事館では、次回の選挙以降も文協ビルを使用していく考え。衆院選の場合は期間が短いこともあり、今回以上の混雑が予想される。全国に三百ある小選挙区の候補者情報提供も課題になるだろう。

(8)コロニア知名人の訃報続く

 コロニアの最高齢者浅見重平さん(108)が、天寿を全うしたほか、多くの各界の貢献者、知名人が死去した。
 福祉事業の和井武一さん(援協会長)、鬼木市次郎さん(視力障害者の支援者)、政治家の森本アントニオさん(元連邦下院議員、元サンパウロ州労働長官)、西徹さん(元バストス市長、三重県人会長)、日本文化紹介の武田五男さん(茶道)、池田信男さん(大衆演劇)、尾上久一さん(錦鯉)、丸山昌彦さん(大衆音楽)、田村ワルテルさん(生け花団体役員、日本館運営役員)、スポーツの岡本哲男さん(水泳五輪メダリスト)、報道関係の宮城松成さん(ラジオ、新聞通信員)、麦喜久男さん(新聞記者)、実業界では本田剛さん(サンスイ社長)、高野泰久さん(書店経営、日本へのブラジル紹介者)、さらにイベント・プロデューサーの秋葉なつみさん(翻訳者)、随想をよくし、女性たちの社交の中心にいた大沢愛子さん。移民百周年をともに迎えたかった人たちだった。

(9)サンパウロ市で日系人大会

 七月十八日から二十一日にかけて、サンパウロで第四十七回海外日系人大会・第十四回汎米日系人大会が合同で開催された。サンパウロでの汎米大会は八五年以来二度目で、合同大会は初めての開催。日本、南北アメリカをはじめ、アジア、欧州、豪州など世界十七カ国から約五百人の日系社会関係者が一堂に会する歴史的な出来事だった。
 期間中は海外日系人大会代表者会議のほか、汎米日系人協会による弁護士、日本語・文化、デカセギ、女性、二重国籍問題など十一の分科会も開かれ、日系社会をめぐる多様な問題について各国代表が意見を交換。サンパウロ州レジストロ市訪問や、県連主催の日本祭会場での国際カラオケ大会も実施され、親睦を深めた。
 各国日系社会間の横のつながり、日本との縦のつながりを深める大きな機会と言える日系人大会。親睦にとどまらない、世界の日系人の意見を集約できる存在としての役割が期待されている。

(10)県連=執行部の確執あらわに=日本祭の未納金問題も

 節目の第十回フェスティバル・ド・ジャポンを迎えて、約十六万レの黒字を出したブラジル日本都道府県人会連合会。今回はイミグランテ会場全体を使用し、さらに汎米・日系人合同イベントを一緒に行い、大いに盛り上がって大成功を収めた。
 しかし、十一月半ばにはバザリスタ担当者の未納金問題が発覚、十二月初めの執行部会議では、意見の相違から副会長の不満が爆発、執行部内の確執があらわになる事態も。順調に見えた県連だが、年の瀬にコロニアに大きな話題を提供した。
 さらに、一昨年の日本祭会計に端を発した裁判も解決しておらず、昨年から企画されている県連四十年誌も足踏み状態が続いている。来年三月の総会までには、と関係者は意気込むが、先行きは不透明だ。
 昨年に続き今年も問題を抱えたままの年越しになりそうだ。