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「個性を保って統合へ」=文協フォーラム=チバ・イサミ氏が講演=全伯日系団体の団結訴える

ニッケイ新聞 2007年12月4日付け

 ブラジル日本文化福祉協会(上原幸啓会長)が主催した第一回文協統合フォーラムで一日、高名なベストセラー作家で精神科医のチバ・イサミさん(66、二世)が「人々の交わりと団結」をテーマに基調講演し、全伯日系団体の団結と統合の重要性を訴え、大きな拍手をおくられた。
 チバさんには十六冊の著作があり、合わせて百五十万冊を売り上げている国内屈指のベストセラー作家だ。国内外で合計三千二百回もの講演をこなしている。
 「日本人は一人だと恥ずかしがるが、二人だと組合を作り、三人だとケンカする」と語り、聴衆を沸かした。
 聖南西のピエダーデ市の近郊にあるタピライで生まれた。父親は炭焼きをしてサンパウロ市に売りに行き、生計を立てていたという。「母親はポ語ができず、ブラジル人が家に来ると、庭に旗を挙げて、山の中で作業をしている父親に合図を送り、下りてきた父親が辞書を片手に話をしていた」と幼少時を思いだす。
 戦争後のゴタゴタの中、父親から「日本は負けた。これからはポ語の時代だから、お前はポ語をしゃべるんだ」と言われ、両親は日本語をしゃべるが、自分はポ語で返事をするようになったという。「おかげで今でも日本語は聞くだけなら分かる」。
 田舎育ちで医療の重要性を痛感していたチバさんは、サンパウロ大学医学部を卒業し、精神科医になり、積極的に地方にも巡回したという。「いろんな家庭の問題を聞いた。結局、人間の幸せには、お金よりも人間関係が一番大切と悟った」という。
 ブラジル社会に最も不足しているのは、家庭内のあるべき人間関係や規範、しつけだと痛感し、「本に著せば、どんな田舎にいても読めるはず」と著作活動をはじめたきっかけを説明する。
 五年前に出版した『Quem Ama, Educa!』(愛するなら教育しなさい、Editora Gente)は空前のベストセラーに。その新版を執筆しており、出版されたら「売り上げの一%を援協に寄付する」と宣言した。
 「日本社会で最も尊重されるのは皇室で、次に国家、最後に個人だが、ブラジルは逆。最初に自分、次に父親、最後が国家。このような根本的な常識の違いを乗りこえて、日系人はブラジル社会に適応する努力をしてきた」と評価する。
 「子供は父親の姿を見て育つ。同じように日系団体の若手も、今やっている運動会や祭りをモデルにする。伝統行事は重要だ。でも、後ろばかり見ていてはダメ。次世代の参加動機が反映された活動に変化する必要もある」と伝統と未来の調和を強調した。
 文協の今後の役割に関して、「コチアが崩壊したのは働く人がいなかったからじゃない。新しい時代に合わせ、全伯的な連携する道を模索してほしい」と語り、日系団体間の団結へのリーダーシップを期待した。
 最後に、会場からの「親から立派なブラジル人になれと言われてきたが、日系人であることとブラジル人であることは両立するのか」との真摯な質問が寄せられた。
 チバさんは「統合とは、個性を保ったまま調和することであり、全てを融合させることではない。個性は失ってはいけない。時には水と油の関係になるが、水と粉末ジュースの関係でもある」と説いた。
 そのほか、「どうしたら日系団体の活動を活性化できるか」との質問には、「若者が活躍できる場を作らなくてはいけない。まずは若者だけで好きなようにやらせ、コロニアの内に居場所を作る。そのような若者の活動を、文協の存在を使って後押しし、徐々に繋がりを作っていったらどうか」と応じた。