ニッケイ新聞 2007年11月24日付け
サンパウロ日伯援護協会経営の特別養護老人ホーム「あけぼのホーム」で、昨年から今年十一月末までに、同ホームの看護師四人が、相次いでアルベルト・アインシュタイン病院に採用されていることがわかった。岸眞司郎同ホーム長によれば、同病院に転職していったのは実務経験を三、四年ほど積んだ能力の高い職員ばかり。この現状に対し同ホーム長は「こうして良い職員がホームから出て行く事態が続いたら運営にも影響がでてくる」と頭を悩ませている。
アインシュタイン病院といえば、ブラジルでも有数なユダヤ系の病院として知られる。今年八月にダッタフォーリャ紙が掲載した記事によれば、同病院はサンパウロ市内にある三百四十三の病院の中で最も優れていると、調査対象となった医師千人から評価されている。給与面などの待遇も当然良く、採用試験は難関だ。
そんな大病院に採用された看護師が同ホームから出たのは昨年のこと。同看護師は三十歳前後の中堅で、これが好例になったのか、今年にかけて同僚の看護婦三人がつづけて同病院の採用試験に合格した。「筆記試験では差がなかったみたいだけど、実技試験で担当者から高評価を得たようです」。
どうして同ホームの職員が大病院への就職と〃栄進〃できるのか――。
その理由について岸ホーム長は、他の施設に比べてハードな勤務環境にあると分析する。あけぼのホームには現在、入居者約四十五人がいる。その約七割が車椅子使用と介助の必要な高齢者。さらに半数近くが食事介助を必要とする。また認知症などを併発する重度の要介護者がいることが逆に、他では得られない幅広い技術を身に付けられる環境になるという。「病院からみれば老人ホームで経験のある職員はかなり魅力的なはずです」。
このような例は「八年前にホームが開所して以来初めて」と岸ホーム長。「彼女たちも給料のいいところを探していたんでしょう。アインシュタイン病院のほうが三倍近くも給料がいいはずですから」。
こうした現状に対し援協本部の具志堅信茂事務局長は「給料のいい方に職を求めるのはブラジルでは当然」と説明。「看護学校を卒業した人がわざわざ老人ホームで働きたいと思わないでしょう。大病院に採用されなくて仕方なしだったり、将来のためにと基礎技術を学ぶためにあけぼのに働きにくるんです」。
岸ホーム長は「福祉団体の施設ですから仕方ないのかもしれませんが、切り詰め財政を進めるのではなくて、本部にも具体的な対策をしてもらえたら」との本音を洩らす。これに対して同事務局長は「給料など待遇面の改善だけで解決できる問題ではない。これはどの老人ホームでも同じ問題になっていることでしょう」と話している。