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共生に両国政府の取組みを=浜松店主強殺から2年=山岡理恵さんが心境語る=〝逃げ得〟が偏見を生む

ニッケイ新聞 2007年11月22日付け

 ブラジル籍日系男性による浜松市のレストラン経営者強盗殺人事件が発覚してから、本日二十二日で丸二年が過ぎた。日本政府による国外犯処罰(代理処罰)要請はすでに三例目を数えるなど、犯罪容疑者となった在日ブラジル人の帰伯逃亡問題は、日伯関係の中で大きな比重を占める問題となっている。そのきっかけとなったのが、〇五年、静岡県湖西市で在日ブラジル人女性との間で起きた交通事故だ。この事故で娘を亡くし、現在NPO法人「国外逃亡犯罪被害者をサポートする会」理事長を務める山岡理恵さん(同市在住)がこのほどニッケイ新聞の取材に対し、現在の心境や今後の目標を語った。
 山岡さんは〇五年十月、静岡県湖西市内でフジモト・パトリシア容疑者が運転していた軽自動車による車の衝突事故で、当時二歳の娘を亡くした。同容疑者は事件後まもなく帰伯、現在もサンパウロ市内で暮らしているものと見られている。
 その後山岡さんは、犯罪人引渡し条約の締結と国外犯処罰制度の確立を目指す中で、今年五月に同NPO法人を設立。公式ホームページによれば、「国外逃亡犯罪被害者やその遺族に対して、犯罪被害後の心のケアや金銭的な支援、物品の提供や貸与による直接的な支援に関する事業を行い、地域安全や人権の擁護に寄与すること」を目的にしている。
 ニッケイ新聞が今月メールで行ったインタビューに対し、山岡さんが現在の心境を語った。質問および回答は次の通り。
――同NPO法人はどんな活動をしていますか。
 メンバーは私たち夫婦の同級生が中心です。人数は理事が十人ほどで、その他お手伝い頂いている方々が十人くらいです。その中には日系の方も一人お手伝い頂いております。
 活動内容は、まずブラジル人の方々とお近づきになろうと近隣の市の外国人が多く居住する地区の自治会を視察に行ったり、その会長さんを招いて共生について講演をして頂いたりブラジルのフェスタにも参加させて頂いております。
――最近ではブラジル人との多文化共生への意識があるようですが、現在の心境は。
 署名活動を通じ、たくさんのブラジル人に署名を頂いたり、また実際、街頭などでお手伝いを頂きました。事故直後は「全員悪い!日本から出て行ってほしい」と感じていましたが、そんな中で、ブラジル人全員が悪いんじゃないと感じました。
 現状を知るため、いろんな方とお話をさせていただき、国、企業などの受け入れの問題、互いのコミュニケーション不足からくる問題など、いろんな要素が犯罪だけでなく小さなトラブルにもつながっていることを知り、私たちにも何かやれることがあるのではと思っています。
 私たちは被害者遺族です。だからやはり被害者側の視点からになりますが、この活動で少しでも犯罪が減り私たちのような被害者がでないよう活動しております。それによりブラジル人の方への差別、偏見が減れば、ブラジル人のためにもなると思っています。
――NPOの将来的な活動目標と、読者へのメッセージがあれば。
 将来的に、条約が締結され(もちろん引渡しを含めた)私たちのような国外に逃亡される被害者がなくなればNPOは解散します。「代理処罰で良し!!」ではないのです。
 今のままでは逃げ得は完全にはなくなりません。逃げれば罪が軽くなる状態では、逃げ得は解消されません。必ず同じことが起きます。こういった状態を野放しにすることが、更にブラジル人労働者や、その家族、子供たちに差別、偏見を与えているのだと思います。
 市民レベルでは共生への道を手探りしています。しかし両国政府が本気で考えないと真の共生はないと思っています。学校に行きたくても通えない、病気になっても病院に行けない現状。互いの利益のために多くのブラジル人が犠牲になっていること。政府が本腰を入れない限り、企業はこれ幸いといつまでも利益追求するだけです。
――焼津市のブラジル人母子三人殺害事件で代理処罰(国外犯処罰)の手続きが始まりました。
 今回の事件、被害者遺族のミサキさんの「とにかく早く捕まえてほしい」という思いで代理処罰という形になりましたが、決してミサキさんも納得しているわけではありません。
 日本では死刑、無期懲役の判決もブラジルでは長くて三十年と聞きます。そういった刑罰の違いから引渡しが難しいということは分かりますが、遺族側の立場から言えば、とてももどかしい現状です。