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アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(12)=ジュート畑でショック!=馬をも飛ばすポラケー

ニッケイ新聞 2007年11月14日付け

◇魚の話(5)
 〔ポラケー〕(電気鰻)
 大きいのは直径八センチ、体長二メートルを越えるものがある。大体静止した水の腐食した植物質の多い所に好んで棲む。よくジュートの畑の浸水した所や刈り取ったジュートを水に漬け込んである所の近くにいる。ちょっと触っただけではビクッとする程度だが、間違えて踏んづけたりすると、馬でもぶっ飛ばす程の衝撃を与える。たまにはショックで死ぬこともあるが、稀である。
 私もジュートの束を取り出す作業中に、ポラケーに触って飛び上がったことが何回もある。静止した水は割合澄んでいて、見えるが、作業を始めるとたちまち濁ってポラケーも木の株も見えない。手探り足探りである。ポラケーなど怖がっていては、仕事にならないので、がむしゃらに働く。それで時々飛び上がることになる。
 〔アライア〕(えい)
 小は直径十センチくらいから大は直径一メートルにおよぶものもある。人の話では、畳(たたみ)二畳ほどもある奴がいるといい、かなり眉唾ものだが、アマゾンならそういう奴もいるかも知れないと思う。
 割合浅い所を好むので、水浴びをしていて、これを踏み、尾の中程にある棘に刺される。これに刺されると、六時間ほど激しい痛みに襲われ、よく手当をしないと、直るのに二、三ヵ月もかかることがある。私も一回これにやられて酷い目に遭った。海産のえいに似ている。
 これに限らず、アマゾン河には、本来海にいるべきものが、河に棲んでいるのがかなりある。アマゾン盆地の構成が太古は海であったものが、地球の収縮によって、アンデス山脈が生じ、それで弱まった地殻にアンデス火山脈が発生、トマックウマック山塊も隆起して、古来あったブラジル中央平原とコの字型となり、流出する土砂に埋まってできたものだけに、海水中にいたものが、だんだん順化して淡水魚となってしまったものと思われる。
 そのほかに、アマゾン河が余りにも大きいため、海にいた魚が間違えて河に遡って来たと思われるものもある。
 当アレンケール市で、ベレン市から約八百キロ、河口から曲がりくねっているので水路にして約千五百キロあるが、当市の前で二メートルを越す鮫を捕獲したことがある。ピラルクー用の銛を打ち込んで、悪戦苦闘の末仕留めたとのことであるが、当の漁師が件の鮫の顎骨を証拠に持参して、信じようとしない人々を黙らせた。
 ノコギリ鮫もいる。先のノコギリになったところを飾りにして、ぶら下げたりする。河豚(ふぐ)もいる。毒性のあるのも、つつくと膨れ上がるのも同様である。海豚(いるか)もいる。これについては後述する。
 巻貝の中には、陸に上がって、森を伐り拓くと朽ち葉の下からゴロリと十センチ程のが出てきたりする。また、この中の小さいのは、一~二センチのものだが、野菜や花を食い荒らすので憎まれ者である。
 〔アカリー〕
 鎧魚という。全身鎧冑で身を固めたような魚で、体長三十センチくらい、灰黒色である。これにはさすがのピラニアも歯が立たない。鰐も敬遠する。水苔や腐った植物質のものを食べる。歯はないので、食いつくこともないが、防御が完璧なので外敵にやられない。そのためよく増える。
 始めはこんなグロテスクな奴が食えるかいな、と思ったが、焼いてよく、スープにしてよく、鎧を脱がして刺身にしてよく、言うところない。
 ただし、当アレンケール付近は水苔の質がよいので、魚肉の味がよい。サンパウロ付近の川にもいるが、住民はこれを食べない。水苔の質が悪くて、一種の悪臭があり、味もよくないとのことである。サンパウロあたりのみやげ物店で、よくこの剥製品を見かける。
 乾季に多量に捕獲され、これを焼いて身をほぐし、さらに炒ったものはピラクイといい、保存食の一つであり、日本のソボロに似ている。つづく (坂口成夫、アレンケール在住)



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