ニッケイ新聞 2007年11月10日付け
アグロフォレストリー(森林農業)――。農業と林業を有機的に組み合わせ、土地を複合的に利用する農法で、持続的農業開発の代表例として知られる。アフリカ地域で盛んな技法で、JICAはブラジル政府の要請により、森林破壊が進むアマゾン地域での同技術の普及に力をいれてきた。現在ではこの技術も日系農家を中心に同地で定着し、ブラジル政府は昨年から同技術の国外移転を計画、アマゾン隣国の農業研究員を招いて研修コースを実施している。第二回の今回は、今月十九日から来月八日まで、同技術普及の中心を担ってきたパラー州ベレン市のブラジル農牧研究公社東部アマゾン農林研究所(EMBRAPA)などで実施する予定だ。
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同研修にはペルー、ボリビア、エクアドル、コロンビア、ベネズエラの農業研究員、十五人が参加する。同研究所で指導的研究者として活躍してきた加藤オズワルド博士らに基礎研修を一週間ほど受けたあと、同州トメアスー市の優良日系農家で実際の技法を学ぶ。
同研修は〇〇年に日伯間で結ばれた日伯パートナーシッププログラム(JBPP)の一環。第三国に「南南協力」を進める枠組みの一つで、過去の日本の協力に基づいて両国共同で実施する形になっている。研修費用はJICAとブラジル政府の折半。国際農業研究グループ(CGIAR)の一つ、「国際アグロフォレストリー研究所」が後援する。
アマゾン地域は七〇年代から政府開発などで破壊がすすみ、〇二年八月までに六十二万キロ平米の森林を失っている。これは日本の国土の一・七倍にあたる数字で、同地の保全は地球温暖化防止への重要なカギをにぎる。
従来アマゾン地域の農家は、森林の伐採や焼き畑によってつくった農作物で目先の収入を得ても、やがて地力の低下を招き、新たな森林を破壊してしまう一方で、伐採された土地に植林だけを行っても、木が成長するまでの収入が確保できないといったジレンマを抱えてきた。
JICAは一九九九年から二〇〇四年にかけてアグロフォレストリーの技術を確立させようと、ベレンの同研究所を中心に「ブラジル東部アマゾン持続的農業技術開発計画」に着手。ブラジル政府の要請をうけて、ベレンとマナウスのJICA支所を通じて、同技術の普及につとめてきた。
今回の研修にあたり、井上ジュリオJICA担当は「他国の農家にも自立した農業経営をしながらアマゾンの自然を守る技術が広まってくれれば」と期待感を込めている。
■日系が発展させた農法■
アマゾン地域でアグロフォレストリーの技術を発展させたのがパラー州トメアスーの日系農家だった。
ベレン市から二百キロほどの距離にあるトメアスー移住地。一九三〇年代から南米拓殖会社の臼井牧之助が持ち込んだコショウ栽培が日系人の努力により成功。戦後の世界的なコショウブームで同地域一帯は、六〇年代後半までに国内のコショウ生産の四〇%を担うまでに成長した。
しかし、七〇年ごろに水害があり、根腐れ病などでコショウが全滅。「コショウだけでは食べていけない」と考えた日系農家がカカオとの混植をはじめ、その後、日陰の役割も果たすマホガニーやブラジルナッツなどの有用樹木を植え始めたのがアグロフォレストリーの先駆けとなった。
同技法は、同じ土地でコショウなどの農作物による短期的な収入と、先行きを保証する木材の双方を得ながら農家の収入を安定させるものとして、近年注目を浴びている。