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『姿三四郎』ポ語版出版記念会=総領事公邸で意義強調される

ニッケイ新聞 2007年11月06日付け

 移民百周年の記念事業として、全伯講道館柔道有段者会(岡野脩平会長)が十年の歳月をかけて計画してきた念願の『姿三四郎』(富田常雄著、フィクション)のポ語版がこのほど、無事出版された。価格は六十五レアル。初版として三千部。六百ページ、原作の第一巻と第二巻の大部分が翻訳されている。日系各書店で購入できる。同書出版にあたり、岡野会長は「日本文化の真髄、武士道の精神を広くブラジルに伝え、ブラジル及び南米の若き柔道家たちのバイブルになってくれれば」と大きな期待感を示している。
 同書はもともと新聞で連載された作品。明治時代の柔道家の人生を描きながら、嘉納治五郎師範の理念や明治時代の背景などがわかりやすく理解できる。
 同書出版の動機については、近年ブラジルで柔道ではなく柔術を習う人が増えており、「身体の鍛錬とともに精神修養を目指す『柔道』そのものの意味を問い直す時期にきていることが理由」という。
 先月三十一日にサンパウロ総領事公邸で開かれた出版記念会には、ブラジルの大手メディアの記者や柔道関係者など約五十人が出席した。
 あいさつで、フランシスコ・カルバーリョ・フィーリョサンパウロ州柔道連盟会長は、現在の世界柔道の現状に触れて、「(同書の出版は)柔道のルネッサンス(再生)につなげ、ブラジル人に広く日本精神を伝えるきっかけになる」と力強く話した。
 また西林万寿夫総領事は「柔道はブラジルでも五輪でメダルがとれる競技。百周年を前に良い文化交流となる」と同書の意義を強調。アトランタ五輪金メダリストのロジェリオ・サンパイオ氏は柔道がブラジルの学校の教育に取り入れられている現状を説明した。
 同書の翻訳・出版費用は約八万ドル。その内、翻訳・印刷費用として約一万二千ドルを国際交流基金が助成。同書の表紙にはブラジル在住の日本人デザイナーが描いた迫力ある仁王像を採用した。
 二年間かけて翻訳を担当した林慎太郎さんは、江戸時代初期に活躍した剣豪の生涯を描いた「宮本武蔵」がブラジルでベストセラーになったことに触れて、「ムサシにくらべてサンシロウの名は知られていないが、内容としてはブラジル人にも十分受けるだろう」と期待感を込めた。
 先のリオの世界柔道で来伯していたNPO柔道教育ソリダリティー理事長の山下泰裕氏(ロサンゼルス五輪金)は、ポ語版の同書を土台にして、英訳版の姿三四郎を出版する意向を明らかにしている。「売上げがあれば、山下さんに協力する意味で、英訳版やロシア語版出版の費用にまわしてもらいたい」と同有段者会の関根隆範理事は話す。
 同書の郵送での販売も受け付けている(送料別)。販売に関する問い合わせは、CIC contabil-Akobrace.Marina Eico Oyama(電話11・2276・4507)または(11・5581・2595)まで。