ニッケイ新聞 2007年10月3日付け
【ヴェージャ誌二〇二五号】ブラジルは安定経済と記録的税収を実現した今、次の課題は官僚制度の改善であるとジョアン・G・カルネイロ氏(六六)が訴える。ブラジルは、いつまでも帝政以来の伝統を理由に旧態依然で留まってはならない。宗主国ポルトガルは、はるか以前に官僚制度をかなぐり捨てた。同氏は民間活動への政府介入を排除する機関、エーリオ・ベルトロン財団を主宰する。記録的税収の達成は、官僚制度を改善する絶好のチャンスだと同氏は叫ぶ。
次は同氏が雑誌に寄せたメッセージである。
【短期間に官僚制度を改善するには】ブラジルはいまだかつて、これほど条件が揃った時代はない。政府は過去一〇年、財政収支の改善で過酷な税金の徴収だけしか頭になかった。現在は見事に目的を達成し、政府は納税者に罪滅ぼしをするときである。
政府が自由で解放的な民間の経済活力を生かすなら、ブラジルはさらに豊かになる。納税の基礎となった生産力が、大きく伸びているからだ。現行制度で税制を克服し納税できる企業は、きわめて少ない。多くの企業はアングラ世界に留まり、正直な納税者がバカを見ている。
【不安定な経済をかもす官僚制度】ブラジル経済の如何に関わらず国税庁は右肩上がりの税収を要し、納税者を絞り上げる。公共経費は経済に関係なく年々、肥大する性質がある。税金の過酷な取り立ては、過去にあった不安定な税収の落し子なのだ。
税金は、不信文化の創造者。政府は市民を信用しない。政府は市民に税金を納めるように強制する。市民は絶対君主に仕える家来のようなもので、税金は登記所でもらう捺印である。捺印をもらわないと役所が書類を受理しないし、生産活動ができない。
現行制度では、政府が生産活動の妨げになっている。記録的税収は、監督官の増員と過酷な徴税の結果であることを国会は看過している。税収増は、生産活動に寄与しない。
【先ず為すべきこと】証明書の数が多すぎる。税金や年金の掛け金を払い、労働裁判所で係争がなければ、全ての証明書を免除するべきだ。この証明書がないと入札ができない。政府と契約ができない。公務員試験が受けられない。愚かなことである。
証明書の有効期間は、僅か一カ月。ただの証明書を確認するために、大勢の公務員を政府は雇っている。これは制度を複雑化し、公務員が汚職を行うように奨励しているのだ。
サインやコピーの確認という手続きは、直ちに廃止すること。正副同一であるかは、先進国では見て確かめる。特に不動産の登記は複雑だ。役所が無意味な手続きで、書士に不要な給料を払っている。
会計事務所は、経営手続きのために多数の会計士を雇い複雑な制度のおかげで儲けている。しかも会計事務所は、顧客に対し一切の責任を負わない。
インターネットは複雑な制度を簡略化するはずであったが、実際は反対である。インターネットを過酷な税金取り立てに利用しただけ。税制のIT化により脱税防止のソフトを立ち上げ、中世の宗教裁判で行われた拷問のように納税者を締め上げている。
インターネットで証明書を取得できるのは、一見改善に見えるが落とし穴がある。手続きのインターネット利用者は、政府当局によってリモート・コントロールされているのだ。
【税制の歴史】それは、三段階で理解できる。第一は、ポルトガル王室のブラジル移転に伴い資産の整理で王室資産管理人が生まれた。第二は、王室の財政難で資金管理人が起用された。第三は王室が莫大な経費を要したため、税金の取立人を雇い、あらゆる税金を考え出した。
記録的税収は、ここから始まった。制度を滅法複雑にして、税金や罰金がいくらでも徴収できるシステムを考案した。これを税制のバロック時代という。毎日のように新税を設定し、税制は達成不可能なほど複雑にして現在に至る。
帝政の悪習は、本国では遥か以前改善されたのにブラジルは旧態依然である。それは国土の広さにもよるらしい。小国ポルトガルでは政策が徹底したが、ブラジルは何をしても失敗した経緯がある。
【重税に耐えられる限界】納税者とは、絞れば絞るほど採れるゴマ油のようなもの。理不尽な重税に耐える人もいるが、七〇%がアングラへ逃れる。八〇%の企業は、税金を滞納している。零細企業が一度つまづいたら、二度と表舞台に立つことはない。