ニッケイ新聞 2007年9月26日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙二十三日】政府高官の汚職は、いまや流行らしい。汚職物語は労働者党(PT)政権になって日常茶飯事であると、社会学者のデメトリオ・マギノリ教授が慨嘆する。ブラジル汚職史を語るなら、五〇〇年前のブラジル発見から始めねばならない。汚職は前時代からの遺産であり、そこには手口のノウハウがある。ヴァルガス時代の汚職やクビチェック時代の汚職、ゴラール時代と汚職の家系がある。汚職は特権階級の特典と思っている人たちがいる。
多民族国家には人種別の特権社会があり、汚職は最高位を占める特権階級に許された犯罪と思われている。以前なら奴隷、現在なら選挙で一票を許されるだけで発言の機会が与えられない無言の庶民階級は、汚職の枠外にいる。
政府高官の汚職に関心を示さない有権者がゴマンとおり、大統領を選出するのだ。これを特権階級は有機社会と呼ぶ。汚職を一人占めにする特権階級の謀略ではないか。その不合理を指摘したのがマルクス主義者で、特権階級対一般大衆という構図をつくった。
ブラジルでは、ルーラ大統領の出現でこの構図は崩れた。それまでは、労働者階級なるものが存在した。労働者階級の後に貧困階級が入った。貧困階級の下に生活扶助者階級がいる。
ブラジルでは、世にも不思議な特権階級が生まれた。労働者が天下を取ったからだ。長い歴史でみれば、同じことの繰り返しではないか。違いがあるなら、犯罪を塗布するルーラ大統領得意の詭弁だ。
社会学では、特権階級を政治、経済、有識者、宗教関係者と各分野に分ける。それぞれの分野に特権階級が存在し、その分野に君臨していることはどの世界も同じ。理不尽な慣習が罷り通り、退廃期を迎える。そして改革が行われる。
北東部では砂糖工場が没落し、有力者共々恥じることもなく、政府援助にぶら下がっている。貧しい北東部にも特権階級が存在し、州知事を頂点にそれへすがりつく公務員らで階級社会を構成している。
軍政終焉後、政界の特権階級と財界の特権階級は分離した。しかし、カリェイロス上院議長が二股をかけて歩いたように、国会では古い慣習が通用している。
だからPT特権階級が、生まれても可笑しくはない。PT特権階級は、労組と学者らを足場に特権階級へはい上がったようだ。この階級は外国で政権獲得のノウハウを学び、階段を登りながら既存の特権階級に渡りをつけ、所得と資産を増やしてきた。
マスコミのPT批判は、PTに対する偏見だと政府が糾弾した。PTがしていることは、過去で誰もが行ってきたことだと反論する。赤い星を掲げた特権階級は、従来の特権階級が築いた概念を否定し、思想的に異なるという。PT政権を支える大義名分のある特権階級だと主張する。
大義名分が正しいか誤りかは、最高裁に委ねる。裏金疑惑が最高裁で審理され、PTは沈黙を守っている。左翼主義者によれば、左翼政権が人類救済の結論だと思っている。PT幹部や党員も、PTだけが理想国家ブラジルを築くと思っているらしい。
政府にとってPTは、新特権階級を中心とする理想社会の基礎となる。PTを中心に階級社会と官僚社会が構成され、その流れに沿って産業社会がつくられる。階級制度や所得システム、権限、資産、特権の母体はPTである。PTを離れて何も存在しない。
現在いかなる状況にあってもPT党員は、ヘソの緒で党と結ばれている。不運の日はPTが面倒を見る運命共同体である。裏金供給や弁護士あっ旋、選挙では立候補のお膳立てを行う。党につながり上納金を納めていれば、野垂れ死にすることはない。
ソウザ検事総長の裏金告発には、歴史的な特徴がある。PT政権の新型汚職と大義名分を、最高裁がどう判断するかだ。従来の汚職は、有力者を中心に政府とアングラ企業が癒着する個人の蓄財であった。新型汚職は、党を中心に政府機関へ網を張り巡らせ、政権存続と新特権階級の養成であって、私腹を肥やすことではない。