アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(7)=両頭やミミズのような蛇も=インジオは怖がるが無害
ニッケイ新聞 2007年9月26日付け
◇蛇の話(4)
ほかに変った蛇としては、突っつくと、ぐっと短くなって幅が広くなるのがいる。インジオはサラマンダラというが、サラマンダラなら中米産の有毒トカゲである。猛毒だというが、毒蛇特有の三角頭をしていない。もっとも、インドのキング・コブラもそうらしいが、首のあたりを平べったくするところは似ている。ただ、もっと大袈裟なだけだ。
コブラ・ヴォアドーラ(空飛ぶ蛇)というのがある。しかし、これは蛇でもなんでもない。一種の蝉である。羽には鮮やかな文様があり、口みたいなものが、嘴のように突き出した奇怪な形をしていて、いかにも毒がありそうな形をしている。実際、インジオたちは、これに刺されたら命がないといって、非常に恐がる。ゴム園に多く、ゴムの液汁を吸っている。
ベレンの博物館で専門家に尋ねたところ、ジャキラナ・ムボイヤあるいはジャキチラナ・ムボイヤといって、まったく危険のない昆虫であり、ゴム園に被害を与えるくらいで、人畜には被害を与えない。ただ余りにも鮮やかな警戒色があり、余りに奇怪な形のために、インジオが恐れること一方でない。まったく云われのない汚名をつけられたとのことである。
両頭の蛇というのもいる。長さは五十センチくらい、指くらいの太さである。頭と尻とは同じくらいの太さで、ちょっと見ただけでは、どちらが頭か尻尾かわからない。注意深く見ると、頭の方が少し大きくて口がある。真中あたりを叩くと、頭と尻尾が同じに返ってくる。これで大抵の者はびっくりする。インジオはこれにやられたら命がない、とひどく恐がるが、口は小さくて大して食いつけそうもないし、尻尾の方にも毒針のような物は見当たらない。
もう一つ、小さくてミミズ蛇というのもある。ミミズより少し大きくて、固いので、ボンヤリしていれば、間違える。これも食いつかれたら命がないというが、こんな小さな口でどうやって食いつけるのかと首をひねる。ちょいとつまんで掌に乗せてみる。食いつきそうな様子もないし、尻尾で螫(さ)す様子もない。たぶん、知らないものは敬して遠ざけるに若(し)くはないと、長い間の生活の経験から来た、危険から身を守る習慣の一つと思う。
◇野生牛の話(1)
ガード・ナトゥレーザ(天然の牛)。ガードは家畜、主に牛を指す。ナトゥレーザは自然の、ということになる。この「天然の牛」というのがいる。
アマゾンの河から離れて奥地に入ると、カンポ・ナトゥレーザ(天然草原)がある。初めは原始林であったのだろうが、乾季になり、異常乾燥が続くと、ちょっとしたことで発火して、たちまち何百万町歩が火の海と化し、表土層の厚いところは、焼けても雨季に入れば、また芽を吹いてくるが、薄いところはその力がなく、何回も繰り返しているうちに、木はなくなってしまって草原になる。
こういうわけで、原始林の中で思いがけぬ広さの大草原にぶつかることがある。これが天然草原で、ここに野生牛というのがいる。
私は見たことがないが、原住民の中にはこれを見たことがあるし、食べたことがあるというのが時々いる。その中の一人が警察代理(西部劇のシェリフみたいなものである)をつとめている近くの部落の人である。
この人の話によると、大きさは大きな犬くらい、高さはせいぜい一メートルくらい。動きは敏捷である。肉は美味で、飼い牛よりも美味だという。捕まえるには、柵で囲いをつくり、牛のよく通るところに塩を少し撒く。点々と置いて、入り口を通って、柵の中に塩を置く。牛は塩をなめながら次から次へと辿って柵の中に入る。これを投げ縄で捕らえるという。
野生牛は、牛の原種なのか、飼い牛が逃げて自然の中で繁殖し、劣勢遺伝で小さくなってしまったのかわからない。つづく (坂口成夫、アレンケール在住)
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