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継承語(日語)喪失は危険=上智大 坂本准教授 警鐘鳴らす=バイリンガル教育セミナーで

ニッケイ新聞 2007年9月19日付け

 「マイノリティ言語は二世代で消滅しうる」。基金のサンパウロ日本文化センターで七、八日に行われたセミナーで講演した、上智大学外国語学部准教授の坂本光代さんは、バイリンガル教育に関する講演会を行い、基礎的な理論の解説に加え、自らの研究成果をそう語った。四十人あまりのUSP文学部学生や日本語教師が聴講した。
 移住一世は日語だけ単言語(モノリンガル)、二世は日語と現地語のバイリンガル、三世は現地語のみになり、日本語は消滅しうるという。事実、研究の行われたカナダの日系社会ではその傾向が強いという。
 坂本さんは日本で生まれて一九七五年、小学三年生で親に連れられてカナダのトロントに移住。昨年、上智大学に赴任するまで三十一年間、バイリンガル教育先進国といわれる同地で自ら実践してきた経験者だ。
 両親の方針で家庭内では日語を徹底して使ったほか、移住翌年の七七年から八五年まで日語補修校で毎週土曜日だけ授業も受けた。
 最初は「まったく英語ができなかった」というが、はじめの一年半だけ「第二言語としての英語授業(ESL)」に在籍し、その後は現地校でカナダ人生徒と一緒に勉強し、日英バイリンガルになった。四年生からは仏語、十年生からは独語も専攻した語学のエキスパートだ。
 同国は二〇〇三年の統計局データで、四人に一人が英仏語(ともに公用語)以外の母国語を話すという移民大国だ。七〇年代前半までは二言語習得は良くないとの考えが一般的だったが、同年代後半からは認知学的・言語学的に有利という見解が広まった。
 坂本さんの研究は、七〇年以降に移住したトロント在住の日本人新移民を定期的にインタビューして調査したもの。カナダ生まれの英語が堪能な二世が日本語をしゃべる主な理由は「英語ができない親との絆」を維持するためだった。
 二世が親の世代になったときには、英語のみの三世とは使う必要がなくなるので、「日本語は自然消滅しうる」という見方を示唆した。逆に言えば、「親が日本語しかできない」ことが二世をバイリンガルにさせている。
 そして「文化ならびに言語保持は、社会的支援が不可欠である」と結論付けた。ということは、ブラジルの日語教育においては、日本政府の協力や日本語学校を運営する文協などの取り組みが、日本語の継承においては重要であることが改めて浮きぼりにされた形だ。
 「ブラジルに来るまでは〃自然消滅する〃としていたが、ここでは三世でも日本語ができる人がたくさんいる。修正しつつある」と語った。「トリリンガルに育てるには」「バイリンガルのメリットは」などと盛んに質疑応答が行われた。
 「同じニュースでもCNN(米国のニュース専門TV)とNHKでは違う観点から報じている。両方の視点を享受できる」と複眼思考の利点を強調した。
 坂本さんは「家庭内では徹底して日本語を使う」「自分の言葉に、子供がポルトガル語で返してきても心を鬼にして返事をせず、日本語でしか会話しない雰囲気を作る」「現地語になりがちな兄弟間の会話も日本語にする」「日本語の雑誌やテレビ番組など楽しい内容を」と呼びかけ、継承語喪失の危険性に関する警鐘を鳴らした。