2007年9月5日付け
【フォーリャ・デ・サンパウロ紙八月十三日】ウニバンコ銀行を創立した外交官のワウテル・モレイラ・サーレス氏を父に持つジョアン・M・サーレス氏は、青少年時代を海外で過ごした。現在は時事関係の記録映画に取り組み、四番目の作品「サンチアゴ=ブラジルの政治経済」を製作中である。同氏の目に写る現在のブラジルは、迷路にはまり込んでいるという。一九五〇年初期までは労使関係が、心を一つに御互いを信用し合う運命共同体であったとみている。同氏は昔の良き時代のブラジル回復を願って、映画製作の活動に励んでいるようだ。
次は同氏が夢みるブラジルの良き時代の回復である。現在の労使関係はブラジルを愚かな結末に導くと同氏は考えている。
【家族的な労使関係】現在リオデジャネイロ市ガヴェア区のモレイラ・サーレス記念館になっている生家は、一時廃屋となり修築された。その姿を見て、リオやブラジルを取り巻く時代の変化が悲しく見える。製作中の作品「サンチアゴ」は、現在のブラジルでは失われた家族的な労使関係をガヴェアの生家を舞台に描いた。かつて執事や家政婦は、家族の一員であった。
【ブラジルが迷路へ踏み込んだのは】企業や家族は芸術の構造物であった。そこには新しい価値の創造があり、大きなヴィジョンがあった。個々としては小さいが、国家が奏でる政治経済交響曲にメッセージを贈った。ブラジル国家を形成する核は家庭であった。階級闘争という考え方が侵入して、家庭とヴィジョンが壊され、国家は模索と迷走を始めた。
【約束の地はどこに】十年後のブラジルに、新しいヴィジョンがあるか。カルドーゾ前大統領は雑誌「ピアウイ」で、ブラジルは愚かな野望を抱いたといった。しかし、ブラジルが愚かなのではない。ブラジルの選んだ道が愚かなのだ。多くの国民はブラジルの未来に夢を描けず、海外に夢を求めている。
【階級意識と労使関係】アングロ・サクソン民族の社会では階級意識が強く、エリート階級が構成された。ブラジルはポルトガル植民者と先住民、アフリカ人の混血民族と社会の混成が進み、一般市民の間では支配階級と被支配階級の意識や階級闘争という考え方が薄く、族長を中心とするムラ社会が構成された。
このような環境の中で、農場主を中心とする荘園社会や労使相互間の信頼関係が生まれた。外国の影響を受けるまでは、信頼関係が階級意識を超越した。労使は企業の利害関係を共有し、一心同体であった。これが本来のブラジル的姿であったのだ。
人間とは本来、運命共同体向きに創られていた。産業革命の落し子なのか、自分対他人とか相対的にものごとを捉える相対意識が生じた。相対意識は階級闘争という社会の仕組みを作り上げ、社会問題が起き始めた。この相対意識が行き着くところには、最終的に両者の破滅がある。
【オウムの止まり木】有産階級の高級車に対し、貧困階級の乗り物はパウ・デ・アララ(オウムの止まり木)だと、ルーラ大統領が言った。階級意識の始まりは権限の有無から始まった。しかし権限の有無で、階級の定義はできない。最終判断を行う者が権限を有するが、失敗した場合の責任は全員が負うからだ。