2007年8月29日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙十五日】アジアの食糧事情に今、異変が起きている。中国やインドを始めインドネシア、フィリッピン、ベトナム、マレーシア、タイなどアジア地域で、経済成長に伴う食文化の変化が起きている。また、地方の農民が都市へ向けて大移動している。世界の食糧政策は、基本構造の抜本改革を迫られている。いままで稗や粟しか食べなかった人々が、乳製品の味を覚えたのだ。中国で脱脂粉乳の需要が激増し、長い間低迷していたブラジルの酪農界に活気が蘇っている。
中国の消費動向で動くコモディテイ市場は、乳製品がトン当たり二二〇〇ドルから四七〇〇ドルへ値上げした。中国市場だけで見るなら、ミルクの消費が二〇〇一年から〇六年までに三・五倍も増えた。六年間に中国人一人当たりミルクの消費量が、八・七リットルから三〇リットルに増えたというのだ。
中国を始めとするアジア地域は食糧の超大市場として、農産物輸出国の注目を集め始めた。インドの食糧事情は、中国に比較して危機的兆候はない。中国の〇六年度食糧輸入四五〇億ドルに対し、インドは八〇億ドルに過ぎない。インドでは、ほとんどの家庭に冷蔵庫がないため、生鮮食品しか食べないからだ。
インドの流通機構の中に、冷凍食品は置かれていない。保存食品のインフラが普及していないからだ。冷凍食品のインフラが普及すれば、鶏肉の消費激増が予想される。
食糧需要の激増は、中国とインドだけではない。アジア地域全体で需要激増の兆候がある。同地域で近年、経済成長に伴う食糧争奪戦が起こるとみられる。農村地域の低所得層が都市へ大移動をする現象は、全てを食い尽くす蟻の大群のようである。
アジア地域の食糧貿易収支は〇五年、輸出八七〇億ドルに対し、輸入七八〇億ドルで出超となっている。しかし、二〇〇〇年から〇五年の間に食糧輸入は八八%も増え、輸出は六五%に留まっている。これは、食糧が輸入傾向にあることを意味する。
中国で起きている離農現象はやがてアジア全域で起き、食糧の全面輸入へ走るものと予想される。中国の可耕土面積は、国土の二%となった。インドとインドネシアの可耕土は、それぞれ一五〇〇万ヘクタールが限度となった。
マレーシアは可耕土の六〇%にデンデ椰子を植林し、残る四〇%も工業用地と住宅地に潰され、増産の余地はない。アジア各国は現在、まだ地方在住者が多いので食糧を自給できる。しかし都市生活者の急増で、輸入食糧に頼るのも時間の問題と思われる。
アジアの穀倉地帯といわれた中国北部やインド西部は、どこも水不足で悩んでいるが適作物は異なる。中国は果実や野菜、養豚、養鶏に適しているが、穀類に向いていない。中国向けの穀物輸出は今後、増加の一途にある。
インドは反当たり収穫量が低いが、適作は穀類である。インドネシアは穀物に適しているが、マレーシアと同様すでにデンデ椰子に集中投資をした。どの国も農地に余裕がないことで、中国の轍をたどると思われる。もしも養豚や養鶏に力を入れるなら、農地はさほど問題ではない。
反当たり収穫が少ないインドを含めてアジア全域は、輸入食糧に頼らざるを得ない。農業大国ブラジルは過去五年間、農産物輸出が三五〇億ドルから七〇〇億ドルへ倍増し、ブラジルの役割も明白となった。
アフリカは、インフラの整備中で、食糧輸出国となるにはまだ時間がかかる。怒涛のように押し寄せる中国製品に悩まされたブラジルは、挽回のチャンスが目前に迫っている。アジア地域を観察するなら、農産加工分野も強化し、アジアとブラジルの合弁企業を多数起す必要がある。