2007年8月17日付け
現在、来伯中の「笠戸丸から見た日本―したたかに生きた船の物語」(〇七年海文堂出版)の著者宇佐美昇三氏が、十一日午後二時から日本ブラジル文化福祉協会の小講堂で、「笠戸丸とブラジル」という題で講演を行なった。約三十人が訪れた。
まず、コーディネーター役の山下亮ブラジル兵庫県事務所長が、宇佐美氏との出会いや来伯理由などの簡単な紹介を行い、続いて宇佐美氏が「笠戸丸」との出会い、歴史などについて講演を始めた。
宇佐美氏は短波放送で海外に国内のニュースを放送していた当時、ブラジルのことをもっと知ろうと考え、日伯中央協会にポルトガル語を学びに行った。その時にたまたま日本移民五十周年記念で出版された「かさと丸」を見つけた。
長崎県佐世保市で育った同氏は子どもの頃から佐世保港に入ってくる軍艦などを眺め、船についてかなり興味があり、詳しかった。
そのため同著を見つけた日、帰りの電車の中で夢中に読んだが、多くの記述の間違いが気になり、それ以来、笠戸丸にとりつかれたという。
しかし、仕事の関係でなかなか調査に取り掛かれないまま数年が経った頃に、研究所に移動が決まり、調査を開始。イギリスで実際に船の博物館で笠戸丸の前身や詳細を見出すことができ、笠戸丸の誕生から沈没までどんな役目を果たしたかを知ることができた。
昨年十月に亡くなった最後の笠戸丸移民、中川トミさんにもインタビュー。蟹工船時代に船員として乗船していた人に話を聞いたりと、笠戸丸の一生を辿っていった。
宇佐美氏は「様々な人の出会いのおかげでここまで調べることができた。笠戸丸の魂が私に身辺調査をしてくれと語りかけたようだ」と最後に締めくくった。
講演を終えて、「今は終えたことに、ホッとしている。今回は通説を伝えて、来た人が面白かったと感じてくれれば嬉しい」と安堵の表情を浮かべて話した。