2007年8月15日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙十四日】ブラジル政府は十三日、米政府がエタノール生産用トウモロコシに莫大な農業補助金を供与していることで世界貿易機関(WTO)へ異議を申し立てた。伯米両政府は二十日、トウモロコシを始め綿や大豆、砂糖に対し米政府が七三億ドルの補助金を供与していることについて、話し合いの席に就く。米国ではエタノールの生産奨励を次期大統領選の各候補者が選挙公約に掲げたため、ブラジルはその資金力にものをいわせた生産メカニズムを解体する意向である。
WTO交渉の最大テーマは、トウモロコシ生産への農業補助金だ。米国では二〇〇八年の次期大統領選へ意欲を燃やす候補者が乱立し、どれもエタノール奨励を旗印としている。
しかし、本音はトウモロコシ生産者のロビー抱き込み目的が明白である。投票の見返りとして、農業補助金の増額を見込んだもの。ブラジルはドーハ・ラウンドの難航を前に、農業補助金増額の流れを食い止める必要がある。
今回の異議申し立てで先陣を切ったのは、カナダ政府だ。それにブラジルも同調し、さらにインドも続いた。交渉のテーマが補助金に絞られるなら、容易に決着がつくとみている。伯米両国は二〇〇七年初めに、バイオ・エネルギーの生産奨励を期して戦略協定を締結したばかりだ。
もしブラジルの異議申し立てが受理されるなら、米国のエタノール生産に大きな影響を来たすと予想される。ブラジルが懸念したのは、米政府の補助金七三億ドルがWTO設定の上限を超過しているからだ。米政府はWTOの補助金上限を一九九〇年に認めた。
米議会に上程されたのは、来る四年間の農業補助金や数々のトウモロコシ生産者保護令である。米国の次期政権に向けた各候補者の公約が飛び交う中、交渉は予断を許さないとみている。双方の合意に至らない場合、伯政府は国際司法裁判所への提訴も考えている。
ブラジルの異議申し立ては、まさに米国の泣き所を突いた。どの次期大統領候補もエタノールを切り札にしているからだ。民主党候補のオバマ氏は、選挙運動をトウモロコシ生産の本場アイオワ州から始めた。農業生産者を取り込むためである。米国は二〇三〇年までに六〇〇億ガロンのエタノールを生産すると生産者を焚きつけた。
エドワード候補は二〇二五年までに六五〇億ガロンとぶち上げた。全ての乗用車は、ガソリンとエタノール両用のフレックス燃料車にするという。生産者への農業補助金も大判振る舞いを公約した。
米国のトウモロコシ生産者は過去十年間、五一〇億ドルの農業補助金を受け取った。この金額は小麦生産者の二倍、大豆生産者の四倍である。エタノール生産の大手ミッドランドは莫大な補助金を受け取り、補助金取り付けの謝礼を政治家へばら撒いた。
米国ではエタノール生産に二〇〇種類の補助制度があり、現在五五億ドルを交付している。また選挙の公約通りにトウモロコシの農業補助金が供与されるなら、米政府は国債を発行したり国際金融から大口融資を受けることになり、エタノールはロビイストの食い物になる。