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コラム 樹海

2007年8月10日付け

 野(や)の移住研究者香山栄一さん(81、イビウーナ在住)が、さきごろ『ブラジルに於けるピアビルとインカ人』を翻訳、一冊(A5版、百四十ページ)にまとめた▼ピアビルは、PEABIRUと表記される、インカ人が数百年にわたってアンデスの東側、現在のブラジル国土に〃造成〃した道のことである。原著は、歴史探求者ルイス・ガルジーノ氏。探求者とは、歴史地理学協会が敬意を表して贈った別称だ▼インカ帝国の勢力・統治範囲は、ペルーとボリビアを中心としたアンデス山岳地帯、西海岸部だとばかり思っていた筆者にとって「ブラジルにも手を伸ばしてきていた」という考証は、驚きだった。カルジーノ氏は仮説設定、物証提示、考察という順序を踏んで、読む人を納得させる▼ピアビルは、カブラル以前(一五〇〇年以前といったらいいか)サンパウロ州、パラナ州、サンタカタリーナ州の町々を幹線と支線でつないでいた▼翻訳本の読後、歴史に「もし」をつけてみた。もし、現在の当該州に勢力を張っていたグァラニー族ら原住民族が、インカの武力を含めた文化に屈して一二〇〇、一三〇〇、一四〇〇年代、統治されたとしたら、ブラジルの今日の在り様やキリスト教文化の受け方も随分違っていたろう、と。インカ人はブラジルに居付く気持ちはなく、ただ大西洋岸までの覇権を維持すれば事足りるとした、というのである▼香山さんは車椅子の身で地道に研究を続け、その成果を分けてくれる。実にありがたい。(神)