2007年5月30日付け
エイズ患者の激増を国家の危機ととらえ、ブラジル政府自らがコピー薬の製造を宣言するーーという未曾有の事態の裏側を、独自のロマンスを交えて描いた麻野涼のサスペンス新作が発表された。
『ジェネリック』(徳間書店)では、エイズのジェネリコ(=ジェネリック、特許が切れて安く販売されている医薬品)が誕生した秘話のようなストーリーを、日本の大学病院で起きた医療過誤と平行させて交互に展開させ、劇的なラストへと向かう。
同書には、アマゾン先住民の信仰する「聖なるダイミ」の儀式で使われる謎の植物、ストリート・チルドレン、トメアス移住地、悪性症候群など不思議なキーワードが次々に現れる。
大学病院からブラジルへ送られた若い日本人医師は、アマゾン川河口の町ベレン郊外のファベーラを舞台に、住民と協力しながら多国籍医薬品会社の差し金の殺し屋らと命をかけて闘いを演じる。国民と国家の関係、そして医療とは。重いテーマが幾重にも交錯する。
実際、今月もルーラ大統領は、米製薬企業メルク社のエイズ治療薬ストクリンの関して、ジェネリック薬メーカーのコピー製造を国家として許可した。まさに現実の起きている事実を背景にしている。
三月三十日付けコレイオ・ダ・バイーア紙によれば、ブラジル全体のHIV罹患者は確認されているだけで四十五万人もおり、さらに十五万人が潜在的な罹患者と見られており、事実、国家的な問題になっている。
前作で、ブラジル南部に逃れたナチスの亡霊〃死の天使〃メンゲレの驚愕の事件を描いた著者。今回は日伯両国を舞台にしたスケールの大きな医療サスペンスの新境地に挑戦した。