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殺人事件は96%の検挙率=元最高検公判部長=本江氏が講演=日本の刑事司法について=独自の法律風土を解説

2007年5月24日付け

 「明治以来、日本では一件も刑務所暴動は起きていません」。元最高検察庁公判部長(現公証人)の本江威憙(ほんごう・たけよし、66)さんが十八日に来伯し、二十二日夜、サンパウロ市セントロにあるサンパウロ大学法学部教授会室で「日本の刑事司法について」の講演を行い、日系団体代表者や学生ら約五十人が制度の違いに聞き入った。司法全般の説明に加え、日本独特ともいえる自白を重要視する「取り調べ」に関して力のこもった説明を行い、予定時間を一時間も上回る三時間ちかい講演となった。
 「日本では殺人事件はほとんど検挙されている」。警察庁統計によれば、二〇〇五年の殺人事件の認知件数一三九二件に対して、九六・六%に当たる一三四五件が検挙されている。
 さらに殺人事件の発生率は一〇万人当たりでわずか一・二人。ニッケイ新聞がIBGE(地理統計院)の〇〇年の統計で確かめたところ、ブラジル全体では二七人だった。多い順にペルナンブッコ州(五四人)、リオ州(五一人)、エスピリット・サント州(四六人)、サンパウロ州(四二人)だった。
 事件の処理としては、実際は有罪だが軽微罪の初犯はほとんど「起訴猶予」にされ、全体の約四割が赦される。三割が略式命令請求(罰金)で、実際に裁判に起訴されるのは約七%だ。
 その代わり、起訴した事件がほぼ有罪判決につながる。「無罪率はほとんど〇%」と胸を張る。「有罪か無罪かを裁判で決着つけようとする国もあるが、日本では検察官が取り調べを通じて事件を見極め、有罪を確信しない限り起訴状にサインしません」。
 日本では司法権の独立が厳格に運用され、東京地検特捜部が元総理を検挙したなどの実績があるために、検察に起訴猶予の大幅な権限が与えられていると説明した。
 日本では、〇五年の刑事施設入所者は三万五五二四人、出所者は三万二一三七人で入所者が超過。「最近、施設に入る人が増えて非常に憂慮しています」。既存の施設が満杯で新設を進めているという。

「自白が刑事司法の中核」

 アジェンシア・ブラジルの今年二月一日付け記事によれば、ブラジルの収監者は二二万四一三〇人(〇七年)で、うち最多はサンパウロ州の九万四三五六人となっている。
 「取り調べ」に関して、欧米のようなインタビューという考え方でなく、犯人であることを確信し、真相についての供述を求める作業、「自白を求める行為」と定義した。
 被疑者の黙秘権を尊重しつつも、検察には取り調べをする権利があるとの解釈を貫く。三二年間の検事経験の中で数百件の事件を起訴したが、自白させなかったのはわずか四~五件だったという。「自分の言葉で罪を話させることで、人間性を取り戻すのです」。
 自白を求めることは「刑事司法の中核です」と強調する。被疑者はいったん自白すると、裁判になっても主張を覆すことは、ほとんどないという。自白しないと有罪判決を下されて収監されても「自分はやってない」と刑務官に素直に従わなかったり、出所してから保護司に反抗したりということがおきるので、全ての基礎になっている。
 同席したナカソネ・アンジュノールサンパウロ州検事正は検事歴三五年の中で、自白は一〇%、ブラジルの検事は取り調べをしないと相違点を比較したコメントをした。
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 ブラジル人の国外逃亡犯を取り巻く状況に関するニッケイ新聞の質問に対し、本江氏は「日本人が外国で罪を犯して帰国した場合も日本国内で裁かれる。なにもブラジル人だけが特別に問題になっている訳でない」との見解をのべた。
 講演後、警備会社に勤務する唐木田光男さんは「ブラジルの現状とはあまりに違いすぎる。法律、文化、社会などの面で応用するのは難しいだろう」との感想を語った。
 この講演会はサンパウロ大学、国外就労者情報援護センター(二宮正人理事長)、伯日比較法学会(渡部和夫会長)の共催で行われた。
 本江氏は二十五日に帰京する。