2007年5月19日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙十三日】サンパウロ州最大の犯罪組織、州都第一コマンド(PCC)が蜂起し、警察署などの公共施設などを襲撃してから一年が経過した。最初の襲撃の五月十二日から三回目の八月十日までの間、サンパウロ州保安局が発表した犠牲者は警官が五五人、市民が七人、犯罪組織メンバーが一一〇人だった。これらの襲撃は波状的に一三二五回にわたって行われた。このため州当局ではいまだに全容を解明できず、一部しか起訴できない有様となっている。PCCと当局の対立は依然として続いているも、当局ではPCCの実数を把握できない状況にあるが、組織は麻薬密売の拡大などで着実にしかも深く静かに社会に浸透している。
当局が憂慮しているのは、市民がPCCと組して警官らに抵抗することにある。現在リオデジャネイロ市で直面している麻薬組織と警官の抗争がサンパウロ州でも展開されるのを危惧している。リオ市ではすでに今回の抗争のみで十数人の市民が犠牲になっている。この背景には組織がファベーラの住民などに生活援助することで市民が見返りに協力しているもの。
PCCも貧民層の「社会福祉」に注力し、市民の中に浸透している。麻薬密売に関する「仕事」を提供するばかりではなく、セスタ・バジカ(生活必需品セット)や医薬品の供与などの生活支援を行っている。たまにはトラックを襲ってビールを分捕り、ファベーラで配布したり、シュラスコやサンバフェスタを催したりしている。
一例を挙げると、サンパウロ市の中産階級異常と言われるブルックリンとカンポ・ペロ地区から十分もかからないファベーラ・ペドラは世間から忘れられた存在で、八五万平方メートルの土地に一一二の入り組んだ路地に六千軒が並んでいる。ほとんどが定職がなく、PCCに依存している。
ファベーラ内には十五カ所の麻薬密売所があり、夜になると人通りが途絶える中で、車やバイクで乗りつける買い付け客で繁昌している。住民は麻薬の包装や販売などで生計をたてている。
子供たちはよその楽しい場所に行くこともなく、ファベーラ内で生れ育っている。当然の事ながら麻薬に染まる。少年は幼い時から麻薬の配達人として働き、十六歳から十九歳になると一人前の売人となる、中には十歳の男の子が自分の体よりも大きい袋を提げて配達に向かう姿も見かける。
彼らは七時から正午、正午から十七時、十七時から二十二時、二十二時以降の時間帯で働き、平均で一日一〇〇レアルの収入を得る。一週間で最低四〇〇レアルを家に入れて家族収入の足しにしている。これで流行のモード品を身につけて女の子の気をひいている。
PCCがABC地区で四四カ所のガソリンスタンドを経営して資金源としていたことが州当局に摘発されたものの、やはり組織の金脈は麻薬となっている。連警によると、二〇〇五年十一月から〇六年九月までにPCCは三六〇〇万レアルを二六〇人の口座で動かしたという。
当局の発表によると、過去一年間に一一六人のPCC幹部が逮捕された。にもかかわらず麻薬取引は通常通り行われている。前出のファベーラ・ペドラを統轄する幹部によると、大筋の指令は獄中の幹部から発せられるが、日常は責任者同志が連絡を取り合っているという。
最近で特に目立った動きは、販売ルートを確立するために各地区に縄張りを設けたことにある。各地区のポストや壁に色分けしたPCCの文字をペイントで書いて縄張り表示にしている。これにより他地区の売人が入れないようにした。
驚くことはPCC少年団が結成されていることで、学校の扉や壁にPCCI(インファンチルの意)の文字があると大人の組織員も手出しができない掟になっている。ファベーラ・ペドラでは十人中七人が少年団に属しているという。
当局でも、刑務所内の幹部の挙動を監視したり、定期的に持ち物検査や携帯電話没収などで外部への指令を阻止しているものの、組織は伝書鳩と呼ばれる面会者を連絡係に仕立てるなどしており、攻防は尽きることを知らない。