2007年5月16日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙三日】ルーラ大統領がチリで展開したエタノール外交は、ベネズエラのチャベス大統領との間に明確に一線を隔すものとなった。南米の主導権で両国はつば迫り合いを演じていたが、国際舞台でブラジルはベネズエラに対し、ことを構える必要はないとエ紙が次のような論説を掲載した。
ベネズエラは独裁まがいの政治形態を執り、国際政治では孤立の道を行く小国である。原油を除いて経済力も政治力も何もない社会主義のマネごとをする国だ。チャベス大統領は「南米銀行」なる得体の知れない構想を提唱したが、内容は要領を得ない。
チャベス大統領に色目を流したのは、中国とキューバのみである。原油があるからだ。ベネズエラは米国の攻撃に備えて迎撃ミサイルを設置するという。ここまで来ると、ブラジルの外交戦略の方がマシといえそうだ。これほど誇大妄想をしない。
チリで開催された南米首脳会議で国際食糧農業機関(FAO)代表が、バイオディーゼル生産を目的とする油脂植物の栽培で食糧生産に支障を来たすことはないと明言した。ブラジルのエタノールは、国連のFAOから「お墨付き」をもらったのだ。
現在の食糧備蓄は、世界の人口六〇億人を養うに十分である。不足するのは食糧ではなく、所得である。六〇億人のうち一〇億人は、食糧を購入する収入もカネもないドン底にある。極貧階級が餓死している脇では汚職がまん延し、食糧を購入して余りあるカネが横領されている。
餓死線上にある人々へ救援物資が送られるが、彼らの手に渡る前に政府の役人が横流しをする。汚職で消える金額は、飢えを癒す食糧を購入する資金とは桁違いである。ルーラ大統領は、飢餓ゼロを叫ぶより汚職ゼロを叫んで欲しい。
こんな訳で、カストロ首相やチャベス大統領が懸念する食糧危機は杞憂である。石油関連業者のサトウキビ栽培による食糧危機説も、空論といえる。
ブラジルが石油ショックで追い込まれたアルコール計画は、はからずも地球温暖化と石油資源有限説に白馬の騎士として登場することになった。ブラジルの都市では失業者が溢れるが、さとうきび地帯では人手不足という。エタノールが雇用創出はもちろん、エタノール機器類製造や数々の派生産業を生み出した。
ブラジルがベネズエラの煽動主義者やボリビアの過激主義者と決別するのは、正論であると思われる。欧米やアジア諸国から期待されるブラジルは、南米のリーダーとしてエタノール大国で足元を固めることだ。