2007年5月15日付け
一九二七年からアリアンサ移住地内で流通していた、「金券」についての情報提供を呼びかける記事を、四月にニッケイ新聞に掲載していただいた。ありがたいことに早速リオの方から、アリアンサと同様、金券システムを取り入れた日系農場の情報をいただいた。さらに、五月三日には、栢野桂山さんが「金券について」という記事を寄稿してくださった。
そして最終的には、サンパウロ移民史料館の小笠原公衛さん(JICAシニア)が、山のような資料の中からアリアンサの金券を探し出してくださった。正に奇跡的に発見されたのである。
実物の「金券」は、旧ブラジル時報紙で紹介されていたサイズより少し大きい、四×六・四cmで、想像していたものよりしっかりした作りだった。金額によって、青、白、黄色など色分けしてあったとのユバ農場のお年寄りの証言の如く、それぞれ異なった色の厚紙が使われていた。
「金券」については、アリアンサの昔話として語り伝えられていただけの存在であり、実物を見つけ出し、それについての情報を集めるというような、特別な配慮は払われてこなかったのが現実である。まさに、アリアンサの重要な歴史の一つが風化しかけていたのである。
しかし、絶望的だと思われていた「金券」が見つかり、それにまつわる情報も集まりだした。そして、それらの資料をもとに、消えかけていた昔のアリアンサの姿の一部が見え始めてきている。
「金券」のようなシステムは、当時のブラジルの農園では珍しいことではなく、取り立ててそれを保護しようなどという行為は、奇妙に思われるかもしれない。しかしながら、実際にアリアンサでは、「金券」をめぐる調査によって、これまでのアリアンサ史には抜け落ちていた一部分を補完することが出来た。
古い記憶をもった先輩方は益々少なくなり、ブラジル日本人移民の歴史はこれからも風化していく一方である。失われかけた歴史を保護することは重要だが、それでは実際に何を保護すべきかは、判断し難いところであろう。
アリアンサの今回の事例は、何も歴史的記念碑や重要事件の痕跡のみが保護されるに値するものではなく、日常的な記憶やありふれた事実にも、貴重な歴史資料としての価値があることが示された。同時に、「金券」が単なる紙切れだったとしても、それに気を止めて資料館に寄贈してくださったことが、実は重要な行為だったと証明されたのである。
「金券」をめぐる調査は、実物が発見されたことで、一つの区切りが出来た。これまで集められた資料を元に、引き続き当時のアリアンサの姿を探って行きたい。最後になってしまったが、今回ご協力をしてくださった方々には、改めて感謝の意を表したい。また、今後もアリアンサ移住地についての情報をお持ちの方は是非ご提供いただきたい。
アリアンサ移住地八十年史編纂委員会
連絡先:矢崎正勝
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