2007年4月18日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙五日】伯米関係はイランの油田開発を挟んで交錯しているが、ルーラ大統領はベネズエラのチャベス大統領と距離を置きつつ、対米関係の修復に傾いている。チャベス大統領は、ボリビアにあるペトロブラスの精油所接収で法的指南を行った。そのため伯米間の風向きが変わった。これはブラジルの将来に何かが起きる兆候とみられる。ルーラ大統領は、エタノールの輸出関税を抗議した。しかし現実として伯米大統領は、ブラジルが米国のエタノール需要を賄いきれないことを知っている。
ブラジルは、エタノールを一八〇億リットル生産し、一四一億リットルを国内消費してしまう。対米輸出ができるのは、二〇億リットルに過ぎない。米国ではエタノール価格が上昇し、輸出のチャンスが到来したが、エタノールは工業生産ではないので早急な増産はできないのだ。
エタノールの関税は、米国の生産者保護であっても、国内生産者への過重負担ではないはずだ。関税を撤廃しても、エタノールの生産量が増える訳ではない。ブラジルが輸出したいだけ米国は受け入れ、輸入制限をしない。大豆の補助金とは事情が違う。
米国はガソリンに一五%のエタノールを混入する計画があり、一三二〇億リットルを必要としている。これを全て、トウモロコシのエタノールで賄うことは不可能である。そんなことをするなら、米国にハイパーインフレを招く。そのため不足分は緊急輸入に頼るしかない事情がある。
米国はトウモロコシ以外からエタノールを産出する研究をしたが、まだ決定打がない。ブラジルの緊急課題は外国の投資を仰いでエタノール王国を築き、技術提供で途上国にエタノール産業を興すことだ。
ブラジルの関心がエタノールの関税に集中している。米国はエタノール輸出の主要市場であるが、唯一の市場ではない。ブラジルのエタノールを欲しがっているのは、イタリアや中国、日本もあり、既に大型資本をつぎ込んでいる。EUも食指を動かしているが、プライドが邪魔して後手となっている。
貧しい中米諸国にエタノール旋風を巻き起すと、農家が儲かるサトウキビに走り、誰も儲からない食糧などに目もくれないと、チャベス大統領とカストロ議長が心配している。しかし、そのようなことは妄想だと誰もが思っている。むしろ、不安定なエネルギー事情を引き起こしたのは、埋蔵量の限界を察知した中近東やロシアの産油国だとEUは指摘した。
ブラジルのエタノール計画では二〇一二年に三五〇億リットルを生産。国内消費に支障を来たさず、現在の四倍を輸出できる計算だ。ブラジルで米国消費の一五%供給が可能ならば、米政府は現行関税率など廃止する可能性もある。ブラジルは度々、勘違いをして大切なことを忘れる。
ブラジルが三〇〇億リットルのエタノールを生産すると、国内需要も急増する。工業用やかんがい用にもエタノールが使われる。こうなるとブラジル経済は、流動資金の流れや資産の移動が都市中心から地方中心へ変化する。これがブラジルの運命であり、使命かも知れない。
現在、エタノールの需要が高まっているが、エタノールに代わるものが出現すると考えなければならない。水素か原子力かという話もある。ブラジルはエネルギー産業で世界のトップを走り、先進国や途上国から期待される国家になる必要がある。
有識者という人たちの無知で売名的な報道が見られる。そんなにサトウキビを植えたら、アマゾン熱帯雨林がハゲ山になる。食物を栽培する所がなくて、食糧危機がくるという。ブラジルには六二〇〇万ヘクタールの可耕地があり、サトウキビを栽培しているのは一〇%の六〇〇万ヘクタールである。他に牧場が二億ヘクタールもある。
国内消費は外国の消費と同率で増えることはない。エタノールの備蓄設備は完備している。増産体制はできている。エタノール業界はかもねぎ業界だ。米国を皮切りに世界へエタノールの窓が開かれている。あとはコスト・ダウンに努力しながら、エタノールの増産に努めるだけである。